サイボウズ・ラボユース夏合宿2024を開催しました

こんにちは、サイボウズ・ラボの内田です。サイボウズ・ラボユースの一環で、2024 年 8 月に夏合宿を開催しました。その様子を紹介します。

ラボユース

サイボウズ・ラボユースとは日本の若手エンジニアを発掘し、研究開発の機会を提供する制度です。ラボユース生が作りたいものをサイボウズ・ラボの社員がメンターとしてサポートし、開発機材や開発活動に応じた補助金、旅費の援助をします。開発物をオープンソースとして公開するという条件の元で著作権は開発者本人に帰属します(ここまでテンプレ)。

過去にどんな開発テーマがあるのか気になる方は、毎年 3 月頃に開催している成果発表会の記事がおすすめです。Inside Out ブログで「ラボユース」で検索してみてください→「ラボユース」の検索結果。ラボユースに応募検討していてもっと情報が欲しい方は、2025 年 3 月に開催予定の成果発表会にぜひご参加ください。

夏合宿 2024

夏合宿は宿に泊まり込んで開発・議論を進めましょうというものです。今年は、去年に引き続きマホロバマインズ三浦というホテルで 3 日間の合宿を開催しました。参加人数は、現役のラボユース生・ラボユース研究生が 9 名、OB/OG が 4 名、ラボ社員が 10 名でした(途中だけの参加者も含みます)。

参加者が2列に並んでいる
合宿最終日の集合写真

3 日間のスケジュールは次のような感じでした。メインは「開発・議論」で、途中に LT 枠や OST(詳しくは後述)を設けました。

日付 時間 内容
8/20 - 11:00 ホテルの会議室に集合
11:00 - 12:00 自己紹介
13:00 - 15:00 開発・議論
15:00 - 16:00 LT 枠その 1
16:00 - 18:00 開発・議論
8/21 09:30 - 11:00 開発・議論
11:00 - 12:00 LT 枠その 2
13:00 - 16:00 OST
16:00 - 18:30 開発・議論
8/22 09:30 - 12:00 開発・議論
13:00 - 14:00 LT 枠その 3
15:00 解散

開発・議論

合宿のメインパートで、自分の持ちネタを進めていく時間です。現役生は自身の開発テーマに沿って、OB/OG やラボ社員は普段の仕事を進める人も違うネタをやる人もいました。ちなみに、筆者(内田)は ComProc コンパイラの最適化をいろいろ追加しました。

近年のラボユースはほぼオンライン活動のみとなっていて、質疑や議論は専用の掲示板システムやビデオ会議などでやっています。そのため、こういったオンサイトで集まれる機会は貴重です。特に合宿形式でずっと一緒にいるため、普段より会話の濃さと量が格段に増えました。

島状に配置された座席に参加者が座り、自分の作業を進めている。座席数にはかなり余裕があり、ゆったりとした席配置になっている。
自分のペースで開発を進める

OST

OST(Open Space Technology)は大人数で楽しく会話・情報交換する手法の一つです。一般的なカンファレンスは発表者や発表タイトルが事前に決まっているものですが、OST は参加者が議論ネタを持ち寄り、テーマをリスト化することから始めるのが大きな特徴です。

どのテーマをどのスロット(場所と時間帯)で開催するかの表を「マーケットプレイス」と呼びます。今回の OST のマーケットプレイスは最終的に下図となりました。

ホワイトボードに書かれた表の各マスに付箋紙が張られている。1つの付箋紙には1つのテーマが書かれている。テーマは順に「Canvaかなり良い」「生活習慣改善ライフハック」「読みやすいアセンブリは?」「ぶっちゃけHCIって何やってるの(分かり合いたい)」「RP2350について皆で調べる」「VRはどうしたら流行する?」「デジタル民主主義」「こんなOSがほしい!hikalium」「LLM活用方法」「BRを買って食べる」
完成したマーケットプレイス

筆者(内田)が参加したスロットの内容を簡単に紹介します。

  • 生活習慣改善ライフハック
    • ついつい YouTube を見続けたりしてしまうのを何とかしたい、というホスト(テーマを出した人)にみんなでアドバイスするというテーマ。
    • いろいろなハックが提案されたが、結局「今の生活で困っていない」のでそれらのハックは実践されないだろうということに(苦笑)
  • RP2350 について皆で調べる
    • Raspberry Pi Pico に搭載されているマイコン RP2040 の改良版として最近発表された RP2350 の新機能を調べようというテーマ。
    • セキュリティ機能や演算機能が強化されていたり、性能が上がったのに消費電力が下がったことなどが分かった。
  • BR(サーティワンアイスクリーム)を買って食べる
    • ホテル内にある BR の自販機でアイスを買って食べます。多くの人が賛同し参加してくれました。
    • 筆者が出したテーマです。こんなテーマもアリだよというのを示すため、あえて斜め上のテーマを出しました。
    • 多くが自販機で買うなか、(前日に BR を食べていた私は)近くのお土産コーナーにあった地元感のあるアイスに急遽変更しました(笑)

LT

3 つの LT 枠では多くの発表がありました。LT 枠が分散していたおかげで、1 つ目の枠の発表を聞いて「次回は自分も発表してみようかな」と思った人がいたと思います。筆者もその一人です。発表された LT のいくつかを、筆者が覚えている範囲で紹介してみます。

  • uekann さん「軽量マークアップ言語のエラートレラントなパース
    • momeemt さんと uekann さんの 2 人でサイト構築用のマークアップ言語を作っているそうです。
    • 構文エラーがあってもなるべく構文解析を進め、一度に複数のエラーを報告できるようにしたい、という趣旨の LT 発表でした。
  • 木田碧さん「簡単な研究紹介
    • ビザンチン故障に耐える Basil というデータベースを拡張しているとのことでした。
  • 浅田睦葉さん「Nixでつくるdotfiles
    • NixOS への愛を語る LT 発表でした。
    • NixOS を使えば、複数のマシンで同じ設定の環境を簡単に作れるというような話だった気がします。
  • 青山柊太朗さん「AIあんの電話、デジタル民主主義、大人数のLLM-mediated熟議
    • 2024 年の都知事選に立候補した安野さんに協力し、安野さんの知識を持った AI が電話質問に答えるシステムを作ったという話でした。
  • akakou(赤間滉星)さん「BBS for Privacy Pass
    • 具体的な情報を明かさず、情報の性質だけを証明する技術を研究しているそうです。
    • 例えば、個人の年齢は公開せずに「18 歳以上である」ということだけを公開できるそうです。
  • kaorun さん「2024年夏・スマート空調の夢」
    • 自宅のエアコンを何とかしてコンピュータから自動制御しようという試みです。
    • エアコンの通信プロトコルにあたりをつけ、制御方法を検討している段階だそうです。
  • hikalium さん「Milk-V Mars から二酸化炭素センサの値をGPIO経由のUARTで読みたい!」
    • Milk-V Mars という Linux が動く小さなコンピュータを使い、CO2 センサの値を取得する試みです。
    • そこに至るまでの苦難の過程が熱く語られました。(例えば glibc のバージョンが異なっていて動かしたいプログラムが上手く動かないというような話)
  • 内田「ComProc CPU のハーバードアーキテクチャ化
    • ComProc CPU は現在はノイマンアーキテクチャですが、それをハーバードアーキテクチャに変えたいなという話をしました。
    • データ領域とプログラム領域のアドレス空間を分けることで、理想的な命令セットにでき、FPGA のリソースを無駄なく活用できることを発見しました。

CO2 濃度

開発ネタがその場の人々の健康に大きく貢献した事例が筆者の印象に残っています。それは hikalium さんの「Milk-V Mars から二酸化炭素センサの値を GPIO 経由の UART で読みたい!」です。hikalium さんはこの開発のために CO2 センサを持ってきており、実際に会場の CO2 濃度を測定していました。その結果 3000 ppm を超える濃度が検出されました。

さすがに高すぎる、マズいということで会議室の窓を開けて換気を行った結果、1000 ppm 程度にまで低下しました。 センサの精度は不明ですが、換気により 1000 ppm という現実的な数値になったことから、大きく外れてはいなかったんだろうと思います。 かなり余裕のある席配置でしたが、換気しないと簡単に濃度が上がってしまうことが分かり、健康な合宿運営に生かされました。

食事

合宿と言えばおいしいご飯じゃないでしょうか。今回の合宿で食べたものを一部紹介します。

もずく・イクラ・シラスが乗った丼、みそ汁、カットオレンジ
初日のお昼はイクラとシラスのどんぶり

マホロバマインズ三浦は三崎漁港に近いというのもあり、海鮮系のメニューが多い印象です。 初日と 2 日目の昼食は海鮮系の丼でした。

刺身を中心とした和定食。固形燃料で調理する魚の小鍋もある。天ぷらの盛り合わせ
夕食は豪華なセット

夕食は豪華なセットでした。固形燃料で調理する鍋もあり、おいしかったです。

朝食の写真を撮りそびれたのですが、参加者が撮ってくれていましたので共有します。

品数のあるビュッフェで、選び甲斐があり楽しめました。 それぞれの料理も美味しかったので満足です。

OSC 出展のお知らせ

10/26(土)に開催されるオープンソースカンファレンス2024 Tokyo/Fall へ、サイボウズ・ラボとして出展予定です。ラボユース制度の紹介と、今年度の採択テーマである、Wasm で拡張できる軽量マークアップ言語 Brack の展示を行う予定ですので、見にきていただけると嬉しいです。Brack の開発者も当日ブースに立つことになっています。

参加にあたり事前登録をしなくても大丈夫ですが、していただけると参加者数などが分かって嬉しいです→ 10/26 【展示/ステージ】オープンソースカンファレンス2024 Tokyo/Fall - connpass

ラボユースの現役生や OB/OG が集まってミニ同窓会みたいになったら面白いなあと思っています。関係者の方、ぜひお越しください。