モブ英作文と、異文化間コミュニケーション改善活動の話

こんにちは。東京品質保証部の臼井です。

日本国外にも上海(中国)とホーチミン市(ベトナム)に開発拠点を持つサイボウズ。エンジニアの日々の業務にも英語が必須…とまではいきませんが、英語が使えたほうが便利な場面に遭遇することは多々あります。今回は、そんなサイボウズ エンジニアの英語学習を支援する「モブ英作文」の取り組みと、異文化間コミュニケーションの改善を目指すコミュニケーションエンジニアリングチームの活動をご紹介します。

モブ英作文とは

名前から想像がつくかと思いますが、モブプログラミングに倣ってみんなでわいわいしながら英語の文章を書いていくという取り組みです。モブ英作文では最初に書き手がお題(書きたい内容)を口頭で他の参加者に説明してから、画面をモニター上に投影して書いていきます。他の人たちは書かれた文を見て、修正したい点を提案します。

作文するためのツールはふつうのテキストエディタでも何でもかまわないのですが、サイボウズでは自社製品であるkintoneのアプリをよく使っています。

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適当なところで一度保存してはまた加筆修正して、参加者全員が「もう直すところないよね」と合意できるまで繰り返します(上の例では、画面上から下へ①~④の順で修正が進んだ状態になっています)。このようにするのは、作成途中の状態を残すことで思考の過程を追えるようにするためです。

サイボウズではモブ英作文が学習目的で行われることが多いためにこのようになっていますが、業務で使う文章を書くなど、最終的に作文ができあがればそれでいい(お勉強はいらない)という場合はわざわざこのようにする必要はないでしょう。

効果

通常は参加者の間で英語力に多少なりともばらつきがあり、知っている(思い出せる)語彙や文法事項にも違いがあるので、各自が得意分野や知識を生かして他の人の苦手を補うことができます。疑問や質問があれば周りの人にすぐに相談しやすい雰囲気になっているのも利点の一つです。

一方で、人を集めて話し合いながら進めるという特性上、一人で書くよりも時間がかかる傾向があります。一人だと辞書を引いたり考え込んだりする時間が長い、という人なら、それほどデメリットにはならないでしょう。

進め方や注意点など

モブ英作文を進めるにあたって気をつけている点の一部を以下に説明します。このあたりは、作文の目的(業務で使うのか、練習としてやるのか)や参加者のスキルなどに応じて変わってくることもあります。

1. 日本語で下書きしない

これは翻訳になってしまうことを防ぐためです。一般に、翻訳には作文よりも高度な英語力が要求されます。慣れていない人がやろうとすると、翻訳元の日本語に振り回されて不自然な英語を書いてしまうことが多いです。

他にも、日本語で文章を書いてから英訳しようとすると

  • 概念的に英語にしにくい表現や、日本文化に深く結びついた語が入り込んでくる
    • 例: 「せっかくなので」「お盆休み」
  • 遠回しになる
    • 例: 「できないこともない」「ちょっとどうかと」「誤りという理解で正しいでしょうか」
  • 行間を読ませる書き方になる

といった現象が生じやすく、補足を追加したり、意訳したりする羽目になることもしばしば。

日本語を書くにしても、あとで英語に訳すなら訳しやすさを考慮しないといけないというわけですね。また、エンジニアの業務では日本語版と英語版の両方が必要になるのではなく、英語だけあればよいというケースのほうが多いので、日本語で文章を書いてもたいていはすぐに捨てる(だったら最初から英語で書けばいい!)という結果になります。

業務で日常的に翻訳をしているような英語力の高い人たちばかりが集まるなら「モブ翻訳」もよいかもしれません。

2. すぐにわからないところは置いておく

上掲のスクリーンショットにもあるように、すぐに単語が思い浮かばない箇所には日本語の単語を仮置きして後回しにします。内容が複雑な場合、下のように単語よりももっと大きい句や節といった単位にABCなどの記号を当てはめておくこともあります。

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英語が苦手な人ほど細かい部分を気にしすぎて「木を見て森を見ず」になってしまいがちなので、まずは文章全体の構成を設計することに意識を向けられるように、こういった方法をとっています。

文章構成としては "PREP" を推奨しています。PREPとは

  • Point (要点)
  • Reason (理由)
  • Example (例示)
  • Point (要点)

の順番で書く技法のことで、その構成要素の頭文字をとってこう呼ばれます。日本語話者が作文すると、どうしても背景情報を先、要点を最後にしてしまいがちですが、そういった癖を直す意味でもこの技法は役に立ちます。

3. 完璧を目指さない

サイボウズのモブ英作文で扱うのはお客様にお出しする文書ではありませんし、書き手も読み手も非ネイティブなので、多少おかしなところが残っていても仕方がないと割り切ります。一人で書く場合よりも読みやすくなっているな、と思えれば十分でしょう。

この点はプログラムの試験とも似ていまして、問題の検出と修正を繰り返せば繰り返すほど、新しい問題が見つかる確率は小さくなっていきます。費やすコストに対して得られるメリットが次第に減っていくので、やりすぎにならないよう合理的な範囲で実施する必要があるというわけです。

コミュニケーションエンジニアリングチームとは?

今回紹介したモブ英作文をはじめとして、サイボウズの各国拠点間の言葉の壁・文化の壁を乗り越えるためのサポートをするチームです。

コミュニケーションエンジニアリングチームが実施する異文化間コミュニケーション改善活動には "Project Cenote" というコードネームがつけられています。"Cenote" はメキシコのユカタン半島に見られる地下水脈の上が陥没してできた泉のことですが、これに壁を壊すイメージと "Communication Engineering (Not Only Translation and English)" の頭文字を結び付けました。その由来の通り、英語や翻訳だけにとらわれずにコミュニケーションの改善に向けて幅広いアプローチを目指しています(と言っても、やはり英語関連は多いですが)。

今までの活動は

  • 「QAで使える英語」「誤解されにくい日本語の書き方」「ベトナム語入門」など、語学系の勉強会の企画・開催
  • 日本・中国・ベトナムの各国の文化に関する勉強会の企画・開催
  • 開発系メンバーが日常業務で必要とするちょっとした翻訳や、英作文の添削

などです。勉強会の開催は、ミネルヴァチームからの強力な支援を受けています。

blog.cybozu.io

そして最後に重要なことですが、このコミュニケーションエンジニアリングチームには今のところ私一人しかいません。そこで!

We're hiring!

今回の記事を読んで、異文化間コミュニケーション改善活動に興味を持った方はぜひ弊社採用ページをチェックしてみてください。

募集要項/エントリー | サイボウズ 採用情報(新卒・キャリア)

コミュニケーションエンジニアリングは品質保証部のもとで活動していますが、製品の試験をしているわけではないので、採用の判断基準は製品担当のQAエンジニアとは多少異なります。このあたりも近いうちに募集要項に反映させていきたいと考えています。

もちろん、製品担当QAエンジニアとしてサイボウズで働きたいという方もお待ちしています。海外拠点との業務で困ったことが発生したときには、コミュニケーションエンジニアリングチームが精いっぱいサポートさせていただきます。