スプリントゴール導入のリアル 〜現場メンバーの声から見えた課題と効果〜

スプリントゴール導入のリアル
この記事は、CYBOZU SUMMER BLOG FES '25 の記事です。

kintone 開発チームでスクラムマスターをしている とうま(@toma_cy)です。

本記事では、スプリントゴールが効果的に作用しているチームについて取り上げてみたいと思います。

はじめに

スクラムにおいて「スプリントゴール」は馴染みのある概念ですが、実際に現場でどのように機能し、どんな効果や課題があるのかは、導入してみないとわからないものです。今回は、私たちのチームがスプリントゴールを導入した際のリアルな体験と、そこから得られた学びをまとめました。

スプリントゴールとは何か

改めてスプリントゴールについておさらいしてみます。

スプリントゴールは、スプリントで達成したい「唯一の目的」です。バックログに並んだタスクのチェックリストではなく、そのスプリントの価値を最大化するための指針となります。

良いスプリントゴールの条件

スプリントゴールは 状態 で表すのが理想です。ゴールは「終わった後にどうなっていたいか」であり、そこへ到達する手段(タスク)は柔軟に変えて構いません。

良い例(状態を示す) あまり良くない例(タスクを示す)
「主なメトリクスがダッシュボードで可視化され、チームが数字を確認できる」 「新ダッシュボード画面の実装タスク A・B・C を完了する」
「CI の失敗率を 5% 未満に抑え、毎朝失敗ゼロでデプロイできる」 「CI ジョブを 3 本リファクタする」

タスクをゴールにしてしまうと手段が目的化し、想定外の近道を見つけてもタスクをやり切ろうとしてしまうというリスクが生じます。ゴールを状態で描くことで「より少ない手段で到達する」発想が生まれ、成果へ集中できます。

導入初期に直面した課題

導入直後、私たちはスプリントゴールをうまく使いこなせませんでした。メンバーの声を集約すると、主な課題は以下の 4 点でした。

  1. そもそも 何をゴールにしたらいいか分からない
  2. なんとかひねり出しても 納得感がない
  3. ゴールを達成するために どのタスクを優先的にやるべきか曖昧
  4. 「この PBI を終わらせる」=ゴール という発想から抜け出せない

スプリントゴールが機能し始めたきっかけ

最大の転機は、プロダクトゴール(向かうべき大きな目的地)を定めたこと でした。遠くの目印がはっきりすると、スプリントごとに「そこへ近づくために最も大事なことは何か?」を逆算できるようになります。

プロダクトゴールが定まってからは、

  • スプリントゴールを描きやすくなり
  • ゴールに紐づく/紐づかないタスクの線引きが明確になり
  • メンバー全員が “今やるべきこと” に納得して着手できる

という好循環が生まれました。結果として「目的=タスク完了」ではなく、スプリントゴールが本来の機能を取り戻し始めたのです。

試行錯誤したこと

機能し始めて以降、スプリントゴールの設定において以下のような試行錯誤を経ることで、より効果的に運用できるようになっていきました。

  • フィードバックループの強化
    振り返りのタイミングで、ゴール設定が効果的だったかを振り返り、次のスプリントに向けて改善点を話すようにしています。

  • ゴール設定の妥当性を検証
    スプリントゴールの達成・未達成に関わらず、そのゴール設定が妥当であったかを話し合いました。ゴールが達成されれば良いというわけではなく、例えばゴールが簡単すぎる場合には達成は可能であるものの、ゴールとしては適切ではありません。逆に、未達成であってもゴールが難しすぎてもいけません。

  • 未達成時の原因分析と改善
    適切なゴールで達成できなかった場合には、その原因を確認し次に活かすことが重要です。これにより、次回スプリントの改善アクションのヒントを探ります。

このように、ゴール設定の妥当性を常に検証し、結果を踏まえて改善を続けることで、チームの成長と成果の最大化を図っています。

スプリントゴールがもたらした変化

これらの工夫により、チームには次のようなポジティブな変化が生まれました。

  • 「今やるべきこと」が明確 になり、迷いが減少
  • メンバー同士の 相互理解と信頼関係が向上
  • ゴールに紐づくタスクで詰まると 自然に助け合う文化 が形成
  • ゴール達成に不要な作業を減らし スループットが向上

メンバーの声ピックアップ

スプリントゴールを実際に運用しているメンバーから寄せられたコメントを、テーマごとにまとめました。重複する意見は要約しつつ、ニュアンスが伝わるよう一部を抜粋して紹介します。

1. 「今やるべきこと」がハッキリする

ゴールに紐づくタスクとそうでないタスクの扱いに差がつき、レビューの優先度も迷わなくなりました
逆算して「今やること」を考える習慣がついたのが大きいです。

2. 全員の思いが可視化され、相互理解が深まる

まず 各自のゴール案を書き出す ことで、みんなの考えが見えるのが嬉しい。
スプリントゴールを決める場そのものが、信頼関係構築の時間 になっています。

3. 状態ベースのゴールで前向きになれた

以前は「このタスクを終わらせる」がゴールだったのでプレッシャーが強かった…。
今は「モヤモヤが解消された状態」など “理想の状態” をゴールに置く ので、
ゴールが達成できなくても改善点が見えればポジティブに振り返れます。

4. 行き詰まりへの即応力がアップ

ゴールに紐づくタスクが詰まった瞬間、Slack 上でメンバーが即ペア作業
朝会で「どれがゴール直結タスクか」を共有していたおかげだと思います。

5. マイルストーンと現在地を揃える効果

ゴール設定時に現在地点の認識を揃えられるので、
“よし、やるぞ!” と気持ちをリセットできてダレません
スピード感を維持できている実感があります。

まとめ

スプリントゴールは「チェックリスト」ではなく「コンパス」です。プロダクトゴールという大きな目的地を描き、その方向へ 小さな“状態変化” を積み上げることが、価値を最速で届ける近道になります。導入当初は形骸化していた私たちのスプリントゴールも、ゴールの定義を「状態」で統一し、チーム全員で腹落ちするプロセスに変えたことで、確かな手応えを得ることができました。

次のステップは、ゴール設定をさらに高速に回し、得られた学びをより早くプロダクトに反映させることです。この記事が、あなたのチームのスプリントゴール改善のヒントになれば幸いです。