チームメトリクスと感情データを活用した「ふりかえり」の手引き

スクラムチームで実践しているソロプロとモブプロを両立したスウォーミングの紹介

みなさんこんにちは。kintone フロントエンドリアーキテクチャプロジェクト(フロリア)で、エンジニア兼スクラムマスターとして活動している村田(@mys_x101)です。

この記事は、Cybozu Advent Calendar 2022 の 18 日目です。

現在、フロリアには兼務も含めて約 30 人のメンバーが参加しています。フロリアは小さな 4 つのクロスファンクショナルチーム体制で、それぞれが独立したスクラムチームとして活動しています。

今回はその中のひとつのチームである、kintone の共通ヘッダー部分の React 化に責任を持つチームで運用しているふりかえり手法を紹介します。

すでに数多くのふりかえり手法が世の中に存在しているため、なぜこのようなふりかえり手法を作成することになったのか過程の部分にフォーカスした内容にしようと思います。チームのふりかえりをより良いものにしていきたいと考えている方の参考になれば幸いです。

ふりかえり手法を作成するに至った経緯

まず初めに、私がこのふりかえり手法を作成するに至った経緯について説明します。

KPT がチームのふりかえりに向いていなかった

よく用いられるふりかえり手法として KPT(Keep Problem Try)があります。私はチームのふりかえりによく KPT を使用していました。しかし、運用する中で KPT は言語化できていない情報や、感情ベースの情報(「楽しい」「不安」「辛い」といった情報)を挙げづらいという問題があることに気が付き、チームのふりかえりで使用するのをやめました。

KPT のような事実ベースのふりかえりは、1on1 やコーチングの後など、個人の中で情報が整理された状態で臨んでもらうと情報が場に出てくるのですが、事実なのか解釈なのか判断が難しい情報は場に出しづらく、個人の心の中に留めてしまう設計になっていると感じます。

チームのふりかえりは主観的な意見を出しやすい設計にした方がよいと私は考えています。ふりかえりでは、主観的な意見に対して、他のメンバーの客観的な意見、定量データに基づく事実から多角的な視点で見て、本質を見極めチームの共通認識を醸成する流れを実現したいです。

すべての改善活動は現状の把握から始まります。場に情報が出揃っていない状態で改善案を出したとしても、それは表面的な解決にしかならないのではないでしょうか?メンバーの感情も問題を正しく捉えるために欠かせない情報の 1 つだと考えています。

KPT 以外のふりかえり手法を模索していた

このような感情データをふりかえりの場に出してもらうために、私が所属していたチームでは、個人の感情を共有する場として KPT に ”お気持ち” 欄を加えてふりかえりを実施していました。

KPT+お気持ちのふりかえりフォーマット
KPT+お気持ちのふりかえりフォーマット

このお気持ち欄に投稿された情報を深掘りするとチームの潜在的課題が見つかるようになりました。「ちょっとしんどい」「もやもやした」という個人の感情を、チームメンバーとの対話を通じて客観的に原因を探ることで、KPT では明らかにならなかった課題が浮き彫りになることが分かりました。

この感情データを活用しないのはもったいないです。言語化しきれていない感情データを拾って改善に繋げられる場を設計できると、より効果的なふりかえりになることは明白でした。

そこで、世の中に公開されているふりかえり手法から、感情データを拾うことができるふりかえりを参考にしてチームに最適なふりかえり手法を作ってみることにしました。*1

チームで使用しているふりかえり手法の紹介

チームで使用しているふりかえりフォーマットとアクティビティを簡単に紹介します。

チームで使用しているふりかえりフォーマット
チームで使用しているふりかえりフォーマット

全体のタイムボックスは 60 分で設計しています。

「事実」、「感情」のデータを収集して、参加者同士の対話を通じてチームの共通認識を醸成します。

このふりかえりで実施するアクティビティをタイムボックスごとに区切って解説します。

0 分 ~ 15 分

スプリントの成果を確認します。確認する項目は次の通りです。

  • スプリントゴール、ゴールの達成状況

スプリントゴールの例
スプリントゴールの例

  • ベロシティの推移

ベロシティ推移の例
ベロシティ推移の例

  • ボトルネック工程

ボトルネック工程の可視化の例
ボトルネック工程の可視化の例

  • 前回の Try の実施状況

前回の Try の実施状況の例
前回の Try の実施状況の例

15 分 ~ 35 分

縦軸に Fact、Emotion、横軸に Negative、Positive を設定したマトリックス図を用意しています。

まずは各々でスプリントをふりかえり、該当する象限の場所に付箋を貼ります。(5 分)

自分が貼る付箋がこの 4 象限のどこに当てはまるのかはメンバー各自の裁量に任せています。

付箋を貼る例
付箋を貼る例

次にメンバーが投稿した付箋の周りにコメントを投稿します。(5 分)

付箋の周りにコメントを投稿する例
付箋の周りにコメントを投稿する例

最後に 1 人 1 枚付箋をピックアップして口頭で共有します。(10 分)

ほかのメンバーが貼ってくれた付箋を共有する形でもよいです。

35 分 ~ 55 分

次のスプリントで実施する Try を決定します。

メンバーに貼ってもらった付箋に投票し、最も投票数の多かった付箋から Try について議論します。

終了時間 10 分前に議論を切り上げ、時間内に Try を設定できなかった付箋について別途 MTG を設定するか決定します。

別途MGTを設定する例
別途MGTを設定する例

55 分 ~ 60 分

ふりかえりを評価します。メンバーからのフィードバックは、次のふりかえりのファシリテーションやフォーマット改善の参考にします。

ふりかえり評価の例
ふりかえり評価の例

以上がふりかえり全体の流れになります。

ふりかえりを設計するときに意識したこと

ここまで紹介したふりかえりの設計には、私の想いがいくつか込められています。

チームメトリクスをふりかえりで活用したい

私の所属しているチームではチームのベロシティや作業工程のステータスを測定しているのですが、ほとんど参照されない状態が続いていました。日々の開発の中でチームメトリクスを確認する導線を作っていなかったため、そのような状況になるのは必然でした。

メトリクスは問題を正しく捉えるために非常に役立ちます。毎日とは言いませんが、最低でも 1 スプリントに 1 度はチームの状態を全員で確認したいと考えていました。

やりたいことは定量データを基に事実を正しく認識することです。それはふりかえりの中で行われるため、ふりかえりの中にチームメトリクスを確認するアクティビティを追加することにしました。

ただ単純に測定結果を貼るだけではメンバーが何を確認すればよいのか分からず戸惑ってしまっていたため、どのような観点でメトリクスを見るとよいのかもあらかじめ記載することにしました。

言語化しきれていない感情データを拾って改善に繋げたい

言語化が難しく、個人の中で問題が整理できていない状態でも、そこにチームをよりよくするヒントが存在するのであれば、ふりかえりの場に挙げられるような、情報共有のハードルが低い場を作りたいと考えていました。「なんかつらい」ぐらいの曖昧な情報からチームの課題を見つけられることが理想です。

このような個人の感情データからチームの Try を設定する流れを作るには、問題・課題の因果関係となる事実データも十分に収集する必要があります。そして、それらは整理された状態であることが望ましいです。そのため、事実と感情が区別された状態で議論フェーズに入れるフォーマットを探しました。

見つけたのはこちらの記事で紹介されているフォーマットです。

t-and-p.hatenablog.com

ふりかえりに付箋を貼る時点で事実と気持ちが整理された状態を実現できることと、元々 KPT + お気持ちのふりかえりを実施していたときに、もう少しお気持ちを分類したいと考えていたことから、こちらのフォーマットが適していると判断し、参考にさせていただきました。

また、こちらのフォーマットを参考にするにあたって、過去のふりかえりでチームメンバーが挙げてくれた情報を分類して、新しいフォーマットでも場に情報を出すことができるか確認しました。

これまでのふりかえりで場に出ていた情報を整理
これまでのふりかえりで場に出ていた情報を整理

整理した情報からフォーマットを作成する
整理した情報からフォーマットを作成する

実際に新しいフォーマットに情報を落とし込んでみたところ、今までふりかえりの場に出ていた情報が欠落しないことが分かりました。

このような経緯から、Fact/Emotion, Positive/Negative の 2 軸のマトリックスでふりかえりを実施してみることにしました。

どのような変化が起きたか

最初のころは言語化しづらい情報をメンバーに共有することに障壁があったと思いますが、メンバーの挙げてくれた情報に対して共感が生まれることで心理的安全性が高まり、ふりかえりの場に沢山の情報が集まるようになりました。

おかげさまでチームメンバーが挙げてくれた感情データから課題を発見して Try を設定し、定量データを基に改善を回すという動きが実現できるようになりました。

現状の確認をして、チームの共通認識を合わせてから Try について議論するという流れを作ることで「チームで決めたこと」という納得感を得やすく、チームが最も関心の高い問題の改善に取り組めていると感じます。

また、Positive/Negative の付箋の偏りからチーム全体の幸福度が一目で分かるようになり、そこからチームの自律性や情熱を高めている・低下させている原因を探ることもできるようになりました。

さいごに

今回は私が所属しているチームで使っているふりかえり手法について紹介しました。このふりかえりもまだまだ発展途上だと認識しているので、今後もより良いふりかえりの形を模索していきたいと思います。

この記事を読んで、チームのふりかえりをより良くするアイデアが発見できていたら嬉しい限りです。

*1:ふりかえりの情報収集には Miro の RetrospectivesRandom retrosふりかえりカタログ が役立ちました。