「第 9 期サイボウズ・ラボユース成果発表会」開催

みなさんこんにちは。サイボウズ・ラボの内田です。

2020 年 3 月 30 日に第 9 期サイボウズ・ラボユース成果発表会を開催しましたので,その模様を紹介します。 今年は新型コロナウイルスの影響で,Zoom でオンライン開催されました。

サイボウズ・ラボユース

サイボウズ・ラボユースとは日本の若手エンジニアを発掘し,育成する場を提供する制度です。

ラボユース生が作りたいものをサイボウズ・ラボの社員がメンターとしてサポートし,開発機材や開発活動に応じた補助金,旅費の援助をします。開発物をオープンソースとして公開するという条件の元で著作権は開発者本人に帰属します。

今期はラボユース生 8 名が成果を発表しました。

発表会のレポート

発表会の集合写真です。(個人的に初めて Zoom で集合写真を撮りました。各人の顔が良く見えて結構いいですね。)

発表会の集合写真

サイボウズ・ラボユースの成果発表会としては初めてのオンライン開催でした。 去年までの発表会のような熱い雰囲気が作れるか心配でしたが, オンライン開催であってもラボユースらしい会になったと感じました。 ただ,恒例となっている発表会後の懇親会が開催できなかったのは残念でした…。

8 人の発表の様子を発表順に紹介します。

西川 哲也さん「手話単語分類」

drive.google.com

西川さんは 2019 年 5 月 17 日からラボユースで活動しています。メンターは中谷です。

手話と日本語は英語と日本語くらい違う言語だそうです。西川さんは手話を日本語に翻訳するシステムを作るための要素技術として,手話単語を分類(認識)するソフトウェアを作りました。1 つの手話単語を収録した動画を入力し,それが何の単語かを分類します。最終的にはスマホで手話をリアルタイムに翻訳するのが目標とのことで,スマホ使用に適する演算量や技術に限定して実装しました。

石巻 優さん「格子暗号を用いたHomomorphic Secret Sharingの実装」

docs.google.com

石巻さんは 2019 年 6 月 3 日からラボユースで活動しています。メンターは光成です。

石巻さんは,準同型暗号と秘密分散の手法を組み合わせた Homomorphic Secret Sharing を C++ で実装しました。

2 台以上のノードに情報を分散させることで各ノードに対して情報を秘匿したまま計算を行います。 加法秘密分散の手法では乗算時にノード間の通信が必要ですが,今回実装した手法は一部の乗算を通信無しで計算できます。

平田 遼さん「高速な楕円曲線の実装」

speakerdeck.com

平田さんは 2019 年 6 月 11 日からラボユースで活動しています。メンターは光成です。

平田さんは,楕円曲線暗号の計算で基本となる点 P のスカラ倍(k×P)を高速に計算するライブラリを作成しました。最も基礎となる足し算と 2 倍算は,sage-8.8 というライブラリと比べて,それぞれ約 14 倍,25 倍の高速化を実現しました。

江畑 拓哉さん「ニコニコ大百科と日本語の情報抽出方法の検討」

speakerdeck.com

江畑さんは 2019 年 6 月 17 日からラボユースで活動しています。メンターは中谷です。

江畑さんの最終目標はニコニコ大百科の知識を使った対話システムや情報検索システムを作ることだそうです。ラボユースでは,ニコニコ大百科の記事を前処理し,機械によって活用しやすい知識の形にすることを目指しました。例えば,記事中の各文において欠落した主語を,ニコニコ大百科のセクション構造を活用して補完する手法などを提案・実装しました。

和久井 拓さん「ミッキーシェイプの認識と検知」

和久井さんは 2019 年 6 月 27 日からラボユースで活動しています。メンターは中谷です。

和久井さんは現実世界で幸運のマークを探したいというモチベーションのもと,まずは画像内の幸運のマークを探すことにチャレンジしました。「幸運のマーク探し」は Kingdom Hearts 3 の世界に散りばめられている,3 つの円から構成される「幸運のマーク」を見つけて写真に収めるコレクション要素だそうです。今回作った幸運のマークを探すシステムを評価したところ,画像内に隠れた幸運のマークをいくつか見つけることができました。

和田 智優さん「クラウドシステムの非決定的性能バグ検査器」

和田さんは 2019 年 9 月 4 日からラボユースで活動しています。メンターは星野です。

和田さんは Java 製の分散並行処理ソフトウェアの「性能バグ」を見つけるツールの実装を行いました。性能バグとは,例えばノード間でのロックが伝播することで,時間制約がある処理の開始が閾値を超えて遅延するバグなどのことです。ハートビートの処理内でロックの取得が遅れると,規定時間以内にハートビートを送信できずノードが故障判定を受けてしまいます。修士論文研究の一環とのことで今後の発展も楽しみですね。

広瀬 智之さん「x86_64での自作OS」

speakerdeck.com

広瀬さんは 2019 年 10 月 1 日からラボユースで活動しています。メンターは光成です。

広瀬さんは,現代の PC で動かせる OS を作るという目標で,x86-64 向けの OS を開発してきました。これから OS を作って学ぼうとする人の参考になるようにドキュメントが整備された OS を作るのが目標だそうです。発表会では,現在完成している機能の中からスレッドを使った並行処理の仕組みを説明しました。

松井 誠泰さん「組み込みRTOS向け内部DSL / Go言語をnil安全にする静的解析ツールの開発」

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松井さんは 2019 年 11 月 22 日からラボユースで活動しています。メンターは川合です。

松井さんは TypeScript を用いて T-Kernel2.0 上で動作するプログラムを生成する言語処理系を開発しました。Docker 上の QEMU で T-Kernel を動かすことで,組み込み向けプログラムであってもテストを自動化できるよう工夫しました。

もう 1 つのテーマである Go 言語に対する静的解析器は,偽陽性が多いなどの問題はありつつも,Nil 安全でないプログラム片を検出できる検査器を開発できたようです。

第 10 期サイボウズ・ラボユース

第 10 期サイボウズ・ラボユースの開催が決定し,2020 年 4 月から募集を開始しています。 前期から募集テーマが 1 つ増えました。是非ご応募ください!

サイボウズ・ラボユース募集要項