こんにちは。kintone 開発チームでスクラムマスター(以下 SM)をしている村田(@kuroppe1819)です。サイボウズでは SM の仕事をより多くの方々に知ってもらう啓蒙活動の一環として、リレーブログ企画を開催しています。
リレーブログ企画:スクラムマスターって何をするの?チームを健全に保つ多様なリーダーシップの実際 - Cybozu Inside Out | サイボウズエンジニアのブログ
対象者 スクラムマスターが近くにいるけどありがたみを感じたことがない人
学習成果 (Learning Outcome) 記事の内容に関連する悩みについて、近くのスクラムマスターに相談できるようになる
この記事では、「スクラムマスターって何をするの?」という質問に対する私なりの答えと、kintone 開発チームのメンバーがスクラムマスターの仕事ぶりに対してどのような評価をしているのかアンケートをとった結果を公表します。
私が普段意識していることをつらつらと述べるだけでは、スクラムマスターが近くにいるけどありがたみを感じたことがない人の心を動かすのは難しいと考えたため、実際にスクラムマスターと伴走してみてありがたみを感じたことがある人の声も集めました。回答していただいた皆様ありがとうございます。
もしこの記事を読んで、うちのチームの相談に乗って欲しい!と思った方はお気軽にお声がけください。
[目次]
スクラムマスターって何するの?に対する私なりの答え
まず初めに私がスクラムマスターとして仕事をするときに意識していることを述べさせていただきます。
顧客を向いて継続的に価値を提供し続けられるチームを育む
サイボウズ開発本部におけるスクラムマスターの責務は、「チームを健全に保つことに責任を持つ役割」と定義されています。スクラムマスター職能の責任である「チームを健全に保つ」とは、チームのタスクに関する成果と人に関する成果を両立できる状態を意味しています。
では、チームのタスクと人の成果を両立するにはどうすればよいのでしょうか?私は実現に向けて 2 つのステップを意識しています。
- 価値基準の認識が揃った安心安全なチーム文化を育む
- 顧客に目を向けて素早く価値を届ける仕組みを整える
チームメンバーが自分たちの抱えている問題に目が向いていると、顧客(他人)に目を向けることができません。そのため、まずはチームメンバーが顧客に目を向けられるように、障害物を取り除いて余裕を作ったり、抱えている悩みを聞いたり、メンバー全員で議論できる場を設計したり、客観的な目線での問題整理や分析をしたり...挙げるとキリがないですね。とにかくまず自分たちの抱えている問題に対して解決に向けて動き出せる環境を整えています。
そして、チームが自分たちの問題をあらかた解決して余裕が出てきたら、顧客にとっての価値とは何か?をチームで考えます。ここが価値提供のスタートラインだと思っています。チームが提供する価値を考え、必要なステークホルダーを巻き込み、素早く価値検証を行うプロセスを確立することで、チームは学び、より大きな成果へと繋げることができるようになります。
価値提供の道に終わりはないです。旅です。私はこのプロセスと学びの場をチームにもたらすために、スクラムフレームワークを導入したり、ワークショップを実施したり、問いかけをしたり、チーム外の関係性にアプローチしたり、デプロイパイプラインを整備したり...こちらも挙げるとキリがないですね。とにかく色々な手法を用いてチームから顧客に目線が向くように促して、継続的に価値を提供できる環境を整えています。
余談ですが、意識しているステップに近いものとして Agile Fluency® Model というモデルがあるのでリンクを記載しておきます。もしかすると、こちらの方がチームの成長のステップをイメージしやすいかもしれません。
出典:https://www.agilefluency.org/model.php
より良いチームを目指す活動の中で得られた学びを共有する
チームをより良くする活動の中で、得られた学びを共有するのもスクラムマスターの仕事です。これはコミュニティへの貢献、他のスクラムマスターに気付きやノウハウを共有するという目的が主だと思いますが、私の場合は困難に向き合ったことの証明としての意味合いが強いです*1。
停滞しているチームを健全なチームにシフトさせるのは、一朝一夕でできるものではありません。必ず困難と向きあうことになり、そこには思考と適用の探索的実験行動の過程が存在します。つまり、困難に向き合っていればブログ記事を書いたり社外登壇できるだけの経験が得られているはずです。
よく「スクラムマスターは成果が見えづらい」というお話を耳にします。私自身もこの仕事を始めた当初は成果が見えづらいと感じていて、チームメンバーに「スクラムマスターって本当にいる?役に立ってる?」と不安になりながらメンバーに聞いていたものです。ですが、今は「見えづらい」のではなく「見せていない」だけだと捉えています。経験を通して得られた学びを言語化したドキュメントがあればレビューしてもらえますし、アンケートをとれば仕事の結果に対してどう感じているのかフィードバックを得られます。
この仕事を始めて半年ぐらいで、能動的に評価を獲得しにいかないとスクラムマスターとしての成長はないと気付きました。そのため、自分の仕事について客観的に評価できる状態を作ってフィードバックを得て、そこで得られた学びを次のふるまいに活かすことを意識して行動しています。今回とったアンケートもその活動の一環です。
幸いなことに、アジャイル界隈は社外登壇の場に恵まれているため、半年に 1 回はどこかのカンファレンスで登壇することを目標にして日々困難と向き合っています。
これまでにスクラムフェス等へ提出したプロポーザルの一覧はこちらです
スクラムマスターが近くにいてありがたいと感じたエピソードと、今後の活動への期待を聞いてみた
スクラムマスターの日々の仕事の効果とこれからの活動の参考情報を得るために設問を 2 つ用意しました。
- スクラムマスターが近くにいてありがたいと感じたエピソードがあれば教えてください
- スクラムマスターに期待していることがあれば教えてください
今回 kintone 開発チームメンバーにアンケートを依頼したところ、9 名の方々に回答をいただくことができました。回答者の属性は、スクラムチームの開発メンバー(エンジニア、QA)、マネージャー職能になります。
スクラムマスターが近くにいてありがたいと感じたエピソードがあれば教えてください
[チームメンバー内での衝突に関する調整やヒアリング]
チーム内にいると衝突の中心にいるメンバーでなくても客観的に物事を判断することが難しく、本人たちも頼りづらかったように思います。第三者が調整してくれるのはとてもありがたかったです。
[スクラムに関するアドバイス]
スクラムを完全に熟知していない中で進め方を模索していると、「そもそもこのスクラムのイベントの意味は?」「進め方を変えたいけど、このイベントはどういう機能を持っているんだっけ?」と、理解不足から変更を躊躇してしまうシーンがあります。そういった時のガイドをしていただくことで、安心して変更や改善を行うことができました。
(開発メンバー T さん)
SM がいるチームといないチームの両方で活動した経験がありますが、SM がいるとチームファーストな活動を率先してやってくるところがありがたいなと感じています。チームファーストな活動としては、Team Topology でも挙げられていますが、次のようなものがあると思います。
- 議論や調査を脱線させないこと
- チームゴールへの集中を促すこと
- 自分の新たな仕事を始める前に、他のメンバーの障害を取り除くこと
- 新しく参加したメンバーをメンタリングすること
これらの活動の重要性は頭の中でわかっていながらも、日々のタスクに追われたりや職能にとらわれることなどもあって、なかなか実行に移せないのがよくあることなのかなと感じています。そのようなチームにおいて、このような活動を推進することに責務を追うメンバーを明確に配置すると、周りのメンバーもこのような活動の大事さを日頃から認識できるようになると感じています。(実際、自分自身の振る舞いも変わったと思っています。)
(開発メンバー N さん)
ふりかえりでの議論や、チームで話し合うことがあったとき、俯瞰的な視点で意見を貰えるのがとても助かっています。具体的なタイミングで言うと、チーム内でやろうとしていることが増えすぎてしまったときの整理など。
(開発メンバー H さん)
[改善への支援]
チームの改善に対して行動を起こしてくれる、促してくれることがありがたい、と感じています。スクラムイベントの進め方、カンバンなどへ改善の目を向けられないのが正直なところですが、(例え気になったとしても、なかなか行動しにくいのも正直なところ)スクラムマスターの支援が入ることで大幅に改善されたと感じました。 また、迷う作業に対して、価値の再確認をしたうえで取り除いていただきました。(スプリントゴール、見積もり時の選択肢など)結果、見ること、考えることがシンプルになり、スムーズに進められるようになりました。
[議論への支援]
振り返りやチームビルディングなど、議論の場の設定だけでなく、議論の進め方、意見の出しやすさへの改善、議論時の軌道修正も行っていただきました。結果、安心してその場に参加することができていたと感じています。
(開発メンバー N さん)
これはスクラム的にいいんだっけ?というメンバーの疑問に対して、スクラムマスターが丁寧に回答してくれたのが良かったです。たとえば、スプリントゴールが未達であっても状況が変わったらゴールの文章を変えていいのか?みたいな疑問です。
(開発メンバー T さん)
人数、やることが増えてチームの体制面に不安を感じていたときに、あるべきチームの形について参考情報やインプットをくださって、そこから具体的な案に落とし込んでいけました
(開発メンバー U さん)
チームのプロセス改善を大きく進めて頂いたのがありがたかったです。例えば
- Github Project を一目みればタスクと進捗がわかる環境になった
- やるべきことが整理されて朝会が短く効率的になった
- コミュニケーション手段が整理されて、投稿先を迷うことが減った
- Slack ベースでやりとりするようになってコミュニケーションも活発化した
などがあります。
また PO 支援活動も印象に残っています。PO 活動に集中する期間やビジネス理解促進デーを設けたり、PO と繰り返し 1on1 して方向性を探る等。これら活動の内容を自分は詳しく把握していないものの、支援頂いて以降、PO の発言するときの視座や考え方が変化して、以存在感が増したように感じています。
こういった改善は、スクラムマスターとして近くでチームの活動を見て頂いた&提案から自走するまで支えて頂いたお陰だと思っています。
(開発メンバー A さん)
※マネージャー目線で書いています
チームの健全性の維持やある種のプロセス改善を、お願いしたり、協力したりして推進できるパートナーがいることが常にありがたいです。もしスクラムマスターがいなければ、各チームからそういう人が自然に生まれてくるか、さもないとマネージャーがなんとかするしかなくなってしまうためです。
もう少し具体的な最近の事例だと、「旧来の全体プランニングの廃止」「PBL 管理をチームに寄せる話」「チーム体制検討の進め方に関する問題提起」「チームビルディングの推進」など、良い/重要な活動だなと思っています。
(マネージャー T さん)
※マネージャー視点での回答です。
[議論の場]
議論が白熱してきて話題が脇道に逸れた場合に調整をはかってくれたり、特定の観点でのみしか議論されていない状態になった場合に、別視点から疑問を投げかけてくれたりしてくれたことで有意義な議論になったと感じました。
[特定ロールを新任された人へのフォロー]
PO*2、EM*3といったロールを新任された人の様子を見て、必要に応じて 1on1 などを設けて進め方のフォローを行なってもらえていることが大変ありがたいです。SM 不在だとここら辺のフォローもチームのマネージャーが実質担っていく必要性が出てきたりしますが、業務量によっては手が回らない可能性があるので助かります。
(マネージャー T さん)
スクラムマスターに期待していることがあれば教えてください
- チームを客観的な視点から改善に導く活動(これが一番です!)
- スクラムイベントに関するサポート
- (個人的に)ファシリテーションスキルが高い方が多いと思うので、ノウハウを教えていただきたいです
(開発メンバー T さん)
最近、Google re:Work - マネージャー を読みました。マネージャーとしてチームに対して良い振る舞いをするには、PO としての明確なビジョンの設定やタスク管理と SM としてのチームの健全性への配慮の両方のスキルが必要であると書かれていると感じていて、個人的には結構大変そうだなという印象を抱いていました。スクラムでは、これを分担しようという考え方で PO と SM という役職を置いているようなので、個人的には非常に共感しています。ということで、これからもチームファーストな姿勢を見せながらチームの健全性を大事にする活動してもらえることに期待しています!
(開発メンバー N さん)
すでに実現できている部分も多いのですが、チームが責任を持つべき部分については EM がアラインし、そこに合わせた活動をしつつ高い生産性を出す・上げるという部分でスクラムマスターの存在・役割に期待しています。
(開発メンバー H さん)
スクラムマスターの支援を受けて改善したチームが、引き続きその改善を維持、またさらによくなるための支援があるとうれしいです。
スクラムマスターがいたことでありがたいと思ったことを、不在な状態で維持する、さらによくするのは簡単ではないと感じています。また、支援が必要な状態だということに気づくのも、簡単ではないと感じています。ありがたい存在だと思う分、不在な状態を不安に思うときがあります。そのため、維持するための支援、またチームの問題に気づいてもらえるなにか、があるとうれしいと個人的には感じています。
(開発メンバー N さん)
チーム状態の健全化を期待しています
- 心理的安全性が脅かされていて、発言がしにくくなっている場合の解消、解消に向けた取り組みの提案
- チームの問題点を一歩引いた目線で指摘してくれる
- よりよいチームの形について提案してくれる
- 社外の情報をチーム内にもたらしてくれる
(開発メンバー U さん)
チームの課題を見つけ、改善すること
一作業者として活動していると、視野が狭くなりがちなことに加え、最初は課題に感じていたことにも慣れて問題意識を持てなくなることがあるため、SM には一歩引いた視点でチームにどんな課題があるかを見出してほしいです。最終的には、チームが自ら課題に気付き、改善できるような文化や仕組みを作り上げて、SM なしでも成長するチームになると理想的だと思っています。
(開発メンバー A さん)
2024 年初から進めている体制変更、特に EM について、問題提起含めた支援を期待しています。
なぜ EM を置いているのか、の説明は果たしていきたいと思うので、そこを理解いただいて、サポートできそうだったり、改善できそうな所は是非アクションしてもらえたら嬉しいです。体制変更を通じてやりたいことは、価値・チームの健全性など色んな面で、kintone や kintone 開発チームをより良くしたい、ということです。そこはマネージャーでもスクラムマスターでも変わらないと思うので、協力していきたい、やりにくい所があれば改善していきたいです。
(マネージャー T さん)
[チームの健全性維持]
チームが健全な状態であるか、を継続して俯瞰的に見ていただき何か懸念があれば助言いただきたいです。長くチームに所属していると段々とチームの健全性を自覚できなくなるように思えるためです。
[スクラムの理解度チェック]
チームメンバーのスクラムへの理解度を観察してもらい、必要に応じてスクラムの勉強を促す活動をしていただけると助かります。特に新人がチームに入った段階で理解度を見ていただきたいです。
(マネージャー T さん)
アンケートを読んだ感想
ここ半年間はチームが素早くアウトプットを生み出せるように、チームを俯瞰して見ながらコミュニケーションのパイプを地道に構築してきたのですが、狙った効果が現れているように感じました。パイプが整備されて継続的にアウトプットを出せる環境が整った今、チームが顧客に提供する価値を考え、必要な関係者を主体的に巻き込んでいく動きを広げていくのが次のステップだと考えています。
今回回答を依頼した kintone 開発チームの約半数はスクラムチームの外にいる職能の方々(PdM、デザイナー、ライター等)で、これらの職能の方々からの回答は得られませんでした。フィードバック(この場合はリアクションの意として)がないことも 1 つのフィードバックです。スクラムマスターとしての影響力はまだまだ小さいなという所感も得られました。この事実を受け止め、引き続き自律と成果を両立したチームの実現に向けて奔走していきたいと思います。
さいごに
サイボウズではシニアスクラムマスターを募集中です。開発組織全体に目を向け、組織全体で方向性を揃えながら、各チームは自律的に活動する状態を目指した仕組み作りに挑戦したい方の募集お待ちしております!