組織のチームワークを最大化するためにスクラムマスター職能を作りました

こんにちは。シニアスクラムマスターの天野 @ama_ch です。

サイボウズ開発本部では、2022年5月に大規模な組織変更を実施しました。詳細は下記の記事をご覧ください。

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今回の組織変更では、職能ラインと人材マネージャーを整備した結果、新たにスクラムマスター職能が誕生しました。

本記事では、スクラムマスター職能を作った背景や、現在の取り組みを紹介します。

サイボウズ開発本部におけるスクラムマスター職能の定義

サイボウズ開発本部におけるスクラムマスターの責務は、「チームを健全に保つことに責任を持つ役割」と定義しました。2020年版スクラムガイドには、スクラムマスターは「スクラムガイドで定義されたスクラムを確⽴させることの結果に責任を持つ」と書かれていますが、組織のすべての人がスクラムチームに所属しているわけではないため、チームがスクラムをしているかどうかは職責に含めず、チームの有効性を確立させる部分のみを職責としました。

チームを健全に保つとはどういうことか

チームを健全に保つとはどういうことか、簡単に補足します。

優れたチームは一般的に、タスクに関する成果(高い顧客満足度、予算・納期の順守、高い品質など)と人に関する成果(メンバーの満足度、学習など)を両立します。重要なのは、これらを両立させるという点です。どちらか片方に寄ってしまうと、持続性がなかったり、ぬるま湯のようなチームになってしまったりします。

スクラムマスター職能の責任である「チームを健全に保つ」とは、チームのタスクに関する成果と人に関する成果を両立できる状態を意味しています。

そのためには、下記のようにさまざまな観点を考慮してチームに働きかける必要があります。

  • チームの設計
    • 人員規模
    • スキルの多様性
    • 業務設計
  • チームのプロセス
    • チームビルディング
    • チーム教育
    • イベント(会議体)設計
    • 問題解決・学習支援
  • など

なぜスクラムマスターを職能化したのか

現代的なソフトウェア企業は、チームトポロジーユニコーン企業のひみつで紹介されているように、オーナーシップを持って自律的に活動する小さなチームが組織の基本単位になります。このようなチームの成果を最大化するためには、伝統的なコマンドコントロール型のマネジメントよりも、よりチームを尊重し支えるような支援が必要です。

Google のマネージャーについての研究によると、優秀なマネージャーの第一の要件として「良いコーチである」が挙げられています。チーム主体の組織のパフォーマンスを高めるための「マネジメント」は、伝統的な指示監督というよりも、チームを支え励ますコーチに近いものになります。

自律的なチームは、チーム外からの指示によって動くのではなく、自分たち自身でゴールを設定し活動します。チームがパフォーマンス高く働き、メンバーが成長と満足を感じられるようにするためには、チームが自分たちをコーチングして日々改善できるようになることが重要です。そのためには、チームを健全に保つスクラムマスターの役割が重要になると考えています。

しかし一方で、その役割に必要な観察・ファシリテーション・コーチングといったスキルを学ぶ機会はこれまでほとんどありませんでした。これらの習得には訓練と時間が必要です。社内外からよく「スクラムマスターは難しい」との声を聞きますが、現場で取り組むスクラムマスターをサポートする仕組み・環境がないと、継続的に活動するのは難しいだろうと思います。

そこで、スクラムマスターを職能にすることでキャリアの選択肢として明確に提示し、組織としてキャリア形成・成長をサポートしたいと考えています。

現在のスクラムマスター職能の状況

現在、スクラムマスター職能には約15名が所属しています。ほとんどのメンバーは他の職能を主務としつつ、兼務という形でスクラムマスターに挑戦しています。また、他職能のマネージャーが自身の業務に活かすためにスクラムマスター職能を兼務しているケースもあります。

以前から開発本部にはアジャイルコーチチームがあったこともあり、アジャイルコーチチームのメンバー3人でスクラムマスター職能のマネジメントを担当しています。

我々のマネージャーとしての責任は、スクラムマスターとして活動するメンバーが、それぞれのチームで活躍しチームワークを高められるようにすることです。そのために、定期的な 1on1 やコーチングセッションなどを実施しています。コーチとして現場支援に入ることもあります。

先日の RSGT2023 では、スポンサーセッションでマネージャー3名からスクラムマスターの職能事情についてお話する機会もありました。よろしければ、下記の記事もご覧ください。

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スクラムマスターにはコーチが必要

スクラムマスターとして効果的な振る舞いをするためには、継続的な実践と学習が不可欠です。役割の性質上、プレッシャーのかかる状況に向き合う機会も多く、チームに奉仕した成果も見えづらい仕事です。私自身も悩みながらスクラムマスターとして活動してきましたが、重要な気づきは誰かとの何気ない対話の時に生まれることが多いです。このような経験もあり、「スクラムマスターにはコーチが必要だ」という信念を持つようになりました。

定期的に行動をふりかえり、悩みを言葉にして、気づきを得て、また新たな気持ちで実践の場に向かう。そんな活動を支え励ますコーチがいれば、スクラムマスターの学びは豊かになり、よりモチベーション高く活動できます。

スクラムマスターを職能化した狙いのひとつに、「定期的にコーチと一緒に内省する機会を提供すること」がありました。マネジメントを担当するアジャイルコーチ3名が定期的に 1on1 を実施することで、職能ラインとしてコーチによる支援を提供できるようにしました。

スクラムマスターが存在できるチームを増やす

スクラムマスターの活動範囲はチーム内だけに限定されるものではありませんが、最初のステップは、まずチーム内でスクラムマスターとして振る舞うところから始まります。スクラムマスターの成長を支援するためには、スクラムマスターとして最初の一歩を踏み出せるチーム環境を整備することが重要です。

そして、組織の基本単位を自律的で小さなチームにしていく活動は、スクラムマスターとして活動可能なチームを増やしていく活動と同じだと言えます。つまり、チーム環境を整えながらスクラムマスターを増やすことができれば、チーム主体のアジリティの高い組織に近づくことができます。経験を積んだスクラムマスターは、チーム内に留まらず、チームを横断する活動や組織への支援もできるようになり、さらに組織全体のアジリティが高まります。

スクラムマスターを職能化したことで、このような未来を実現したいと考えています。絵に描いた餅にならないよう、日々一歩ずつ取り組んでいきたいと思います。サイボウズのスクラムマスターたちの今後の活躍にご期待ください。