1月19日(土)に、Rubyのまつもとゆきひろさんをお迎えして、「エンジニアの未来サミット for students 2012」の第3回が開催されました。
「エンジニアの未来サミット」が技術評論社とサイボウズの共催になってから今年で3年目。まつもとさんは、その最初から毎年講師として足を運んでくださっています。
今年の講演タイトルは「オープンソースを通じた自己主張」。まつもとさんは、2つの寓話を題材にして話をスタートさせました。
1つめは「ゆでガエル」。これは、熱湯にカエルを入れるとすぐに飛び出してしまうけれど、水に入れて徐々に熱していくと、熱いと気づいたときにはカエルは茹で上がってしまうというお話です。ゆっくりとした環境の変化には、なかなか気づきにくく対処が遅れてしまうという例は、地球温暖化への対応にも見て取れるでしょう。
こうした「ゆでガエルの悲劇」を脱出するためのキーワードとして、まつもとさんは「思い込みの打破」を挙げます。「学歴が重要」というのも「ITは専門家の仕事」というのも思い込みに過ぎないし、iPadに代表されるような「タブレット」という新しい市場が出来たのも「パーソナルコンピュータとはこういうものだ」という思い込みが打破されたからだと指摘。
もう1つは「ストーン・スープ」。最初は、鍋で石(ストーン)を煮ていたのに、それに興味を持った人たちが連鎖的に塩や野菜を持ってきてくれて、最後には食べられるおいしいスープが出来上がる、というお話。ストーンはきっかけに過ぎないのですが、この最初のきっかけを作るということが、コラボレーションにおいては最も大事なことなのだというわけです。
オープンソースというソフトウェア開発のやり方も、コラボレーションのパワーを生かそうというものですが、これが、これからの時代のソフトウェア開発者にとってますます重要になると、まつもとさんは言います。
「新しいルール」(※1)の適用が加速していくとき、ソフトウェア開発者にとって最も重要な武器となるのが、オープンソースと、それを通じた自己主張なのです。
まつもとさんの語り口は意外に早口なのですが、それでも、具体的な例をたくさん引きながら理解しやすいように言葉を費やしてくれるので、ついつい話に引き込まれ、時間が経つのがあっという間です。1つ1つのトピックには深く考えさせられる内容もたくさん含まれているので、ぜひ実際の講演をご覧になられることをお勧めします(ustream録画を公開しています)。
続いて行われたトークセッションは、まつもとさんに加えて、技術評論社の馮さんと、サイボウズ社長の青野慶久、サイボウズ・ラボの竹迫という4名が会場からの質問に答えるという形で行われました。
「同年代のソフトウェア開発者との出会いが少ない」「オープンソースソフトウェアへの貢献と、社業とのバランスをどうすべきか?」「文系だけど、ソフトウェアエンジニアになるには?」「大企業か、ベンチャーか?」「バタフライ効果として実感したことは?」などなど、質問や相談の内容はバラエティに富んでいますが、真剣に知りたいという熱意はみな同じ。それに応えるべく登壇者も本音ベースで話をするので、終始スリリングなやり取りが時間いっぱいまで続きました。
※1:まつもとさんが挙げる「新しいルール」とは、「組織から個人へ」「企業からコラボレーションへ」「インターネットと自由を重要視」「組織による庇護から、組織と対等な関係へ」の4つ。詳細は、ustream録画をご覧ください。