ユーザーリサーチ勉強会:「ユーザーインタビュー」を学習する (準備編)

こんにちは!モバイルチームの小島です。 モバイルチームで活動している「リサーチ勉強会」について紹介します。

今回は「ユーザーインタビュー」について。 インタビュー実施の準備をするところまでをご紹介します。

なぜこの勉強会を始めたかの経緯は、過去の記事にて紹介しておりますので、 興味があればご参照ください。

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はじめに

インタビューは想像が付きやすいと思いますが、対象者に対して質問を行い、自分たちの知りたいことを明らかにしていく手法となります。 アンケートとは異なり定性的な調査手法に分類されます。

なにを誰からどう聞き出すか、というのがインタビューの準備の根幹になります。

何を(WHAT):知りたいことを定義(何がわかっていて、何がわかっていないのかを整理する)
誰から(WHO):誰から聞けそうか(条件の検討)、条件に合う人を探してリクルーティングする
どう聞き出すか(HOW):目的(知りたいことを知る)のために、質問形式に変換する

これらのことを意識し、成果物としてインタビューガイドを作成します。 今回は、このインタビューガイドの作成の過程・学びを共有いたします。

インタビューのテーマ設定 (WHATの設定)

まずは「知りたいこと」を定めるところからはじめます。今回は実践的な学習のためでもあるので、ゼロからテーマ決めをしています。

  • モバイル端末を使ってなにかできたら嬉しいことはあるか?
  • 弊社製品でなにか困ってそうなことあるか?​
  • カレンダーみんな何使ってる? (注:弊社はグループウェアを提供しておりカレンダーは主要な機能の一つのため)

これらの問いから、自由に仮説を立て(こういうのがあったら良いなでもOK)、裏付になりそうな経験があれば紹介するような形でテーマ候補を出し合い、今回は「QRコードでのログイン」をテーマにすることにしました。

弊社が提供するサービスは、導入していただいている企業様ごとにドメインが異なり、オプションによってはクライアント証明書の利用を必須にすることもできるため、ログインのフローが一般的なサービスと比べ複雑です。

次のような仮説を立てました。

  • 特にクライアント証明書が必要なケースでは、証明書を端末に送る必要がありフローが複雑である (参考)
  • ユーザーはもっとスムーズにログインしたいはず

また、QRコードを使ったログインを提供することで以下を満たせるのではと考えました。

  • 利用者の手間を減らせる
  • エンドユーザーの使い勝手が良くなることで、IT管理者の負荷を減らせる

上記のような製品の抱えている課題は議論がしやすく、得られた結果を製品チームにフィードバックすることもできると考え、このテーマに落ち着きました。

インタビューの対象を選定する (WHOの設定)

知りたいことを定めたので、インタビューに向けた準備をしていきます。

調査目的の設定

まず調査の目的を改めて整理しました。

  • ユーザーを知る(ニーズの確認)
    • クライアント証明書を使ったログインフローに起因する困難を明らかにする
    • エンドユーザーの困難が、IT管理者(情シス)対応コスト増に繋がっていることを明らかにする
  • プロトタイプを評価する​
    • QRコードを介した手段をペーパープロトタイプとして作成し試してもらう
    • 理解度、受容性を確認する​
      • 既存手段と相対的にみてどうか(改善による満足度の推定)​
      • QRコード自体の浸透と理解度​

インタビュイー探し

インタビュイーとは、インタビューを受ける人のことを指します。 調査目的の設定の中で、管理者・ログインを行うエンドユーザーを条件に設定しました。ただし、今回は学習のためであまり大掛かりなものにしないため、社員の方に協力してもらうことにしました。活動の内容を共有し快く受けていただけました。

  • 弊社情報システム部のAさん
    • IT管理者の代表としての回答を期待
  • 弊社カスタマーリレーション部のBさん
    • ユーザーサポートの窓口をしていただいているので、エンドユーザーの代弁者としての回答を期待

インタビューガイドの作成 (HOWの設定)

限られた時間の中で調査目的(知りたいことを教えたもらう)を達成するために、インタビューガイドを作成していきます。ガイドを作成しておくことで、インタビューごとに質問内容がブレたり、聞きたかったことを漏らすようなことを防ぐことができます。

最も聞きたいことを KeyQuestion と呼び、実際には最初にこれを決めて、KeyQuestion に段階的に近づけることを意識して流れを組んでいきました。(インタビュイーはいきなりこちらの意図を理解して答えられない、ということのようです) 今回は 60 分の予定を確保したので、インタビューに 45 分+バッファという考えで、質問の時間配分を決ていきました。KeyQuestion まで確実に到達させるために、細かい時間配分は重要です。

また、インタビュイーの属性や期待する視点も異なるので、それぞれに対してガイドを作成しています。

Aさん(IT管理者)の例

ラポール形成 (0-5分)

  • (インタビューワーの)自己紹介
  • 趣味や休日の過ごし方など

ラポール形成とは、相手との信頼関係がある状態になることを言います。 お互いのことをよく知らない状態だと本音で回答していただけなかったり、スムーズにインタビューが進行しないこともあるためこのステップは大事です。 趣味や休日の過ごし方、最近の業務などを聞いたりしながら、自分のこともはなし場を暖めつつリラックスしてもらい、話をしやすい環境を整えていきます。 今回インタビューを受ける人は社員で面識もある方でしたが、実践練習でもあるのでこの過程もちゃんと行うことにしました。

事前に聞いておきたい質問 (5-15分)

  • 通年で多い問い合わせは何か?
  • (管理者目線で)困っている人が多いなと思う問題はあるか?
  • 問い合わせが増える時期はあるか?

IT 管理者として一般的に感じている課題を知るため、このような質問事項を設定しました。 ラポール形成の延長で、核心の質問の前に関連するところで相手のことをもう少し知る、場を暖めておくという意味合いもあります。

テーマに近い質問 (KeyQuestion1) (15-25分)

  • 現状のモバイルアプリについて、クライアント証明書を使ったログインで、問い合わせや問題点などあるか?
  • 問い合わせをしてくるユーザの中の特徴や属性はあるか?
  • A さん自身が、クライアント証明書を使ったログインで不便だなと感じるところはあるか?

既存のフローにおける、証明書を使ったログインについて、IT 管理者としてエンドユーザーから問い合わせを受けたエピソードなどがあるかの質問を設定しました。 実際にそのような問い合わせを受けたエピソードはない可能性もあるので、ユーザーとして既存フローについて思うところがあるかの質問も設定しました。

プロトタイプの紹介と質問 (KeyQuestion2) (25-45分)

  • 率直な印象は?
  • 画面や操作について疑問点はあるか?
  • 良い、悪いと思ったところは?
  • IT 管理者としての業務へ負担軽減に繋がりそうか?
  • エンドユーザーへの案内方法が変わったりするか?
  • セキュリティ的な懸念点はあるか?

事前に以下のような 4 コマのプロトタイプを準備し、

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QR コードログインのフローを評価するための質問や、QRコードそのものへの印象を聞くための質問、IT 管理者としての影響度合いについての質問を設定しました。

インタビューガイドについて補足

量の都合と個人情報などもあり、箇条書きで紹介しましたが、実際のガイドは台本のように話す内容を記載しています。

ラポール形成(5分)

- 自己紹介 -
今日はご協力していただきありがとうございます。
まずこちらから自己紹介させていただきます。
モバイルチームの、△△と申します。
今回勉強会という位置づけなのですが、社内の人にインタビューをさせてもらっています。
こういうインタビューって受けたことありますか?
== 待ちとその場での受け答え ==

製品向上のためのインタビューであって正解のないものなので、〇〇さんが大丈夫な範囲で臆することなく答えてくださると助かります。

では、まず...

この台本は、あくまでインタビューを円滑にすすめる、聞きたいことを聞き逃さないために使うものなので、実際にこれをそのまま棒読みして良いものではないですが、箇条書きではアドリブでいきなりセリフも出ないので、このような形で作っておくのはインタビューする側にも安心材料にはなると思いました。(慣れてくれば箇条書きでも成立するのかもしれません)

リハーサルの実施

インタビューガイドを元にリハーサルを実施し、時間配分や質問の表現に問題がないかチェックしインタビューガイドをブラッシュアップします。

最後に

インタビューの準備としてはここまでです。

私の学びとして得たものまとめます。

  • 想像以上に準備に時間をかけるものであること (それだけ目的達成の確度を上げてから臨むものであること)
  • 聞きたいテーマに段階的に迫るような構成にすること (KeyQuestion を決めてから周辺を埋めていく)
  • 特に本題に入る前に場を暖める(ラポール形成)が重要
  • KeyQuestion に到達できるよう時間配分を予め設定しておくこと
  • 台本の形式でインタビューガイドを作成しておくこと

次回は、インタビューの実施と分析についてご紹介します。