「『のりしろ』を武器に変化を楽しもう」──エンジニアの未来サミット for students 2012 第2回レポート

12月12日(水)、今年度第2回となる「エンジニアの未来サミット for students 2012」が、芝浦工業大学・豊洲キャンパスにて開催されました。

「エンジニアの未来サミット for students 2012」第2回の集合写真
「エンジニアの未来サミット for students 2012」第2回には24名が参加。今回も最後まで熱心に語らう姿が見られました。

改めて「エンジニアの未来サミット」について紹介すると、エンジニアを目指す若者と現役トップエンジニアが交流することを通じて、エンジニアの未来を探そうという趣旨で、技術評論社が2008年から始めたイベントです。2010年からは、エンジニアを目指す学生に焦点を当てるべく「for students」と銘打ち、サイボウズと共催で行う現在の形になりました。エンジニアの未来を考え続けて早5年。決して派手なイベントではないかもしれませんが、当初からの意図を継承しながら毎年着実に回を重ねてきています。今年は3回の開催が予定されており、第1回は去る11月10日に「日本のものづくり再考」をテーマに行われました(「『世界征服は電話応対から』──エンジニアの未来サミット for students 2012 第1回レポート」)。

さて、今回のテーマは「ベンチャー企業」。ゲストは、モバツイを開発し自ら起業もした「えふしん」こと藤川真一さんと、ハウツー共有サイトほか新しい試みを次々に打ち出している株式会社nanapiの取締役CTO、和田修一さん。そして、サイボウズ創業メンバーの1人で、現在はサイボウズ・ラボの社長を務めながらエンジニアとしても現役を続けている、畑慎也。この三人には、いずれもエンジニアでありながら起業もマネジメント(経営)も経験してきたという共通項があります。

「変化を楽しむエンジニアになる」と題して講演する藤川さん
Twitterクライアント「モバツイ」の開発でも知られる、「えふしん」こと藤川真一さん。

「変化を楽しむエンジニアになる」と題して講演した藤川さんは、「大企業とは、そもそも何だろう?」という質問を投げかけ、徐々に答えを引き出しながら、大企業だから必ずしも安泰というわけではないと指摘。大企業であっても常に変化し続けているので(変化し続けなければならないので)、個人としては「寄らば大樹」のように会社に依存してはいけないのだと説きます。「(大学に進学したのは)安定を得るためではなく、戦う武器を得るためだったはず」「会社の規模ではなく、自分の成長に必要なものを見極めよう」など、エンジニアでありながらビジネス経験も豊富な藤川さんらしく、ここぞというところで鋭い言葉が投げかけられる刺激的な時間でした。

藤川さんが用いたユニークな言葉の1つが「のりしろ」。これは、他者とのコミュニケーションを円滑にするための(相手の領域に関する)理解とも言うべきもので、たとえばエンジニアなら、自分の技術領域ばかりでなく、デザインのことやビジネスのことにも理解があればデザイナやディレクターとのコミュニケーションが円滑になります。こういう場合に必要な「理解」を藤川さんは「のりしろ」と呼んでいて、エンジニアが身につけたほうがいいスキルだとアドバイス。

最後に藤川さんは、仕事を面白くするコツを披露してくださいました。それは「野望を持つこと」。自社製品をナンバーワンにしたい、有名になりたい、独立したい、オープンソースに貢献したい……等々、どんなことでも構わないので、自分が何をやりたいかという願望を明確に持つこと。それこそが、社会を変えていく力になるのだと。そして「『のりしろ』を武器に、自分から変化を作り出すことも大事」として講演を締めくくりました。

トークセッションの様子
エンジニアの未来サミット恒例となったトークセッション。1時間の枠内で質問が途切れることなく続くほど、今回も大盛況でした。

藤川さんの講演に続いて、和田さんと畑も交えてのトークセッションが行われました。会場からの質問にゲストが本音で答えるという、エンジニアの未来サミット恒例となったプログラム。

「自分は大学生になってからプログラミングを始めた。周囲はもっと早く始めている人が多くて焦りがある」といった悩み相談から、「大企業かベンチャーか以外に、フリーランスという選択肢もあると思うが、そのメリット、デメリットは?」といった具体的な質問まで、参加者の皆さんの切実な問いかけに、ゲストの三人が、ときには自身の体験を語り、ときには先輩として厳しい言葉を投げかけるという、真剣勝負の場でもあります。

トークセッションで質問された方には、技術評論社提供の雑誌をプレゼント
トークセッションで質問された方には、技術評論社提供の雑誌をプレゼント。

「仕事の心構えを教えてほしい」という質問には、畑は「仕事を好きになること」と即答。畑自身が、プログラミングが好きで好きでたまらなくて何時間やり続けても苦痛ではないそうで、そのことが仕事をポジティブに進めていく上では大切なのだという話になりました。

同じ質問に対する和田さんの回答は「世界をどういう風に変えたいのか、何を実現したいのか、という大義を意識すること」。和田さんたちが手がけているWebサービス「nanapi」では「世界中にあるすべてのハウツーを検索できるようにする。それによって知識の格差を減らすことができる」というビジョンを共有していて、「こういう機能があれば、そうした世界に1mmでも近づけるよねと、日々、話し合っている」とのこと。仕事というと、ややもすれば目先のことだけに囚われがちですが、和田さんが「大義」と呼ぶ大きな方向性を見失わないことは、エンジニアがエンジニアとしての誇りを失わないためにも大切なことだと言えるでしょう。

懇親会の様子
懇親会でも話は尽きませんでした。トップエンジニアとざっくばらんに話せる機会があるのも、エンジニアの未来サミットの大きな魅力。

今回も、トークショーは大いに盛り上がり、引き続き行われたゲストを囲んでの懇親会でも、最後まで話は尽きませんでした。来場者にとっては、質問に対して答えが得られるというだけでなく、同じ悩みを共有したり、ゲストの体験談に勇気づけられたり、直接に顔を合わせ、ざっくばらんに語り合うことで得られるものは想像以上に大きいものだったはず。今年度のエンジニアの未来サミットは、残すところあと1回。2013年1月19日(土)に開催される「第3回」にもふるってご参加ください。

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