この記事はkintoneの生成AIチームで連載中のkintone AIリレーブログ2026の7本目の記事です。 リレーブログでは、生成AIチームのメンバーがAIトピックに限らずさまざまなことについて発信していきます。
こんにちは、kintoneの生成AIチームでエンジニアリングマネージャーをしている立山です。 みなさんのチームはAIを活用していますか?ここ最近はコーディングエージェントが高速にそこそこいいコードを作ってくれる時代で、個人の開発生産性は上がっていると思います。一方で、チームでAIを活用するというのはまだまだ限られているのではないでしょうか? この記事ではチームでAI、特に自律的に仕事を進めてくれるAIエージェントとの協業のはじめ方についてお話ししようと思います。 私たちのチームでは、AIエージェントとの協業を始めるにあたって、以下の3つに取り組みました。
- 仕事を言語化し、Agent Skills として定義する — 「すごいAIシステム」を作る意識ではなく、まず仕事の形を整え、AIに委任できる手順に落とし込む
- チームで共有可能な資産にする — 個人のノウハウに留めず、チーム全体で使える共通資産として運用する
- 失敗できる環境を整える — AIが失敗しても素早く検知・復旧できる安全網を敷き、安心して委任できるようにする
※ この記事ではチームがClaude Codeを使っている前提で話を進めますが、他のAIツールを使っていても同様の考え方が適用できると思います。
- なぜチームでのAIエージェント活用が必要なのか
- 仕事を言語化し、Agent Skills として定義する
- チームで共有可能な資産にする
- 失敗できる環境を整える
- AIエージェントと協業できる環境の効果
- 今後の課題
- まとめ
- We are hiring!
なぜチームでのAIエージェント活用が必要なのか
AIツールの進化は目まぐるしく、状況は日々変わっています。そのなかで積極的に活用しているのはAIに関心のある一部の人たちで、利用している人としていない人の間で格差が生じやすくなっているのも事実だと思います。個人の活用だけでは個人の生産性向上にとどまり、組織全体でのAI活用はなかなか進みません。 こうした課題感のなか、弊社では、AIツール(特にAIコーディングツール)の知見共有の勉強会が開催されたり、社外イベントでの知見の発信も積極的に行われています(大規模プロダクトで実践するAI活用の仕組みづくり。また、弊社開発本部長から「チームのためのAI」について発信があり、個人の活用にとどまらずチーム単位でAIを活用していく方向性が示されています(AIで「すごい個人」よりも「すごいチーム」をつくる)。
この動きはCybozuに限った話ではありません。業界を問わず、自律的にタスクを遂行するAI — いわゆるAIエージェント — をチームに組み込む流れが世界的に加速しています。昨年のAWS re:Invent 2025参加時に印象的だったのは、AWSのExecutive in ResidenceのMatthias Patzak氏の発表で、「これからのチームは、個人が自分の専門性を中心にエージェントを使いこなせているチームである」と語っていたことでした(A Leader's Guide to High-Performance Organizations)。エージェントを優秀な新人と捉え、人間が委任スキルを発揮してチームとして成果を出すような姿です。また、Google Cloud expertsのコラム(AI grew up and got a job: Lessons from 2025 on agents and trust)でも、2025年は、AIと単にチャットするところから、AIを実際の従業員のように扱い始めた年になったと述べており、エージェントは現場で蓄積されるナレッジを元に成長していくものとしています。さらに、Gartnerも2030年までに80%の組織が大規模なエンジニアリングチームからAIで補強されたより小規模で機動的なチームへ移行すると予測しており(Gartner Identifies the Top Strategic Technology Trends for 2026)、チームの在り方そのものが変わりつつあることを示しています。 以上をふまえると、AIエージェントの導入により、チーム・組織レベルで以下のような変化が起こると考えられます。
- ハイブリッドチームの常態化: 人間とAIエージェントが混在するチームが標準になる
- 人間の役割の変化: 実行層はAIに移り、人間は判断・創造性・委任といったオーケストレーション層を担う
- チーム規模の縮小: AIエージェントを持つチームが、AIエージェントなしの、より多人数のチームと同等の成果を出せるようになる
このような方向性は見えてきた一方で、そういったチームを作るために、具体的にどう始めればいいのか、知見はまだあまり共有されていません(しかもリソースをかけずに)。私たちのチームでは、この問いに対して先述の3つの軸で取り組んできました。以降の章では、その具体的な取り組みを紹介します。
仕事を言語化し、Agent Skills として定義する
私たちがAIエージェントとの協業を始めるにあたって最初にやったのは、「すごいAIシステム」を作ることではなく、仕事の形を整えることでした。
AIエージェントに移譲する仕事の範囲を決める
AIエージェントと協業する上で大事になるのは、普段のチームの業務の仕事を任せ切る形で定義することです。最終的な判断や承認は人間がするとしても、そこに至るまでのプロセスはAIエージェントが一貫して担えるようにします。中途半端な委任は、人間とAIの間でコンテキストを何度も受け渡すことになり、かえって効率が下がります。
また、AIエージェントに一連の仕事を任せ切ることで、その仕事の手順全体をナレッジとして確立する力学が生まれ、AIエージェントだけでなく、チームの誰もが同じ品質で仕事を回せる環境が整いやすくなります。結果として、脱属人化も進みます。
仕事を自然言語・Agent Skillsで記述する
よく言われるように、AIエージェントは優秀な新人のようなものです。新人に仕事を任せるとき、作業手順書が必要です。AIエージェントにとっても同じことで、仕事を自然言語で明確に記述することが出発点になります。
たとえば、以前の記事で紹介したように、私たちのチームではRenovateによるライブラリアップデートの対応をAIで行っています(kintone AI開発効率化!RenovateのPRレビューをClaude Codeに任せた話)。「PRを確認し、テストが通っていればマージする。破壊的変更がある場合はChangelogを確認して対応する」といった手順を、自然言語で明文化します。
仕事が自然言語で記述できたら、次はそれをAgent Skillsとして定義します。Agent Skillsとは、エージェントが特定のタスクを実行するための手順をまとめたものです。Agent Skillsの実体は基本的にはプロンプト(自然言語のマークダウンファイル)です。プログラミングの知識は必要なく、「こういう手順でこの仕事を進めてほしい」という指示を日本語で書くだけで定義できます。そのため、非エンジニアやAIに詳しい人でなくても扱いやすいという特徴があります。
また、プロンプトに加え、bashコマンドやMCPツールへの参照が含まれていると、エージェントが仕事を進められる成功確率が上がります。たとえば「テストを実行して結果を確認する」という手順であれば、具体的なテストコマンドを記述しておくことで、エージェントは迷わず実行できます。
ただし、ツール群の整備は重要ですが、最初から大がかりな検索システムなどを構築する必要はないというのが今のスタンスです。現時点のCodingエージェントは、マークダウンファイルを配置するだけでagentic searchにより、かなりの精度で目的の文書を見つけてくれます。
上記のような作業は、Anthropic公式のAgent Skillsの一つである、 skill-creator を活用すると、簡単にかつAgent Skillsのベストプラクティスに沿って行えるため、おすすめです。
チームで共有可能な資産にする
前章で定義したAgent Skillsは、個人のローカル環境に閉じていては意味がありません。チーム全員が使える共通資産として運用できてはじめて、チームとしてAIエージェントと協業している状態になります。 ここで鍵になるのは、Agent Skillsを簡単に共有できる仕組みです。共有の仕組みが整いチームにAgent Skillsが蓄積されてくると、それをリモートで自動実行する仕組みも活きてきます。
Claude Codeには、Gitリポジトリを指定するだけでチーム全体でAgent Skillsを共有できるMarketplace機能があります。この仕組みが私たちのチームにとってとても効果的でした。 Marketplaceの強みは、主に2つあります。
- 必要な準備はAgent Skills用のリポジトリを作るだけ(導入も1,2コマンドだけ)という導入の容易さ
- Agent SkillsがGit管理され、チームメンバーの誰もが自由に追加・更新でき、自然に共有されること
この仕組みが整ってから、チームメンバーが「これ便利だったから共有しよう」と次々にAgent Skillsを追加するようになりました。ナレッジが自然と蓄積されるようになったのは、共有の仕組みが簡単だったからだと思います。私たちのチームでMarketplaceをどのように構築・運用しているかの詳細は、別記事「チーム専用の Claude Code Plugin マーケットプレイスを作った話」で紹介しています。 こうしてAgent Skillsが蓄積されてくると、それをリモートで自動実行する仕組みも活きてきます。私たちのチームではClaude Code Actionsを使い、PRの一次レビューをエージェントに任せています。共有されたAgent Skillsがあるからこそ、「いつ・どこで実行するか」を定義するだけでチームのナレッジをリモートでも活かせるようになります。
失敗できる環境を整える
AIエージェントはいい精度で仕事をしてくれますが、たまに間違えます。最終的な判断は人間が行うにしても、エージェントが行った変更が本番環境に影響を与える可能性は常にあります。 ここで大事なのは、「AIに失敗させない」ことではなく、「AIが失敗しても大丈夫な環境を整える」ことです。失敗を前提とした安全網があるからこそ、積極的にエージェントに仕事を委任できるようになります。 ベーシックな仕組みではlinterやテストを使ってコード品質を保つ方法がありますが、私たちのチームでは、さらにいくつかの仕組みでこの安全網を構築しています。
Smoke Testによるデプロイ検証
デプロイ後にSmoke Testを自動実行し、基本的な機能が正常に動作しているかを即座に確認します。エージェントが行った変更がデプロイまで進んだとしても、Smoke Testが失敗すれば即座に気づけます。生成AIチームのデプロイは、Dev -> Staging -> Prodの順でデプロイが進むため、問題があったとしても、Prodへの適用前に気づけるようになっています。
Application Signals SLOとアラート
生成AIチームでは、Amazon CloudWatch Application Signalsを使い、SLO(Service Level Objectives)を定義しています。レイテンシやエラーレートに異常が出れば、すぐに気づけるよう仕組みを整えています。これにより、エージェントの変更が本番環境に影響を与えた場合でも、ユーザーへの影響が大きくなる前に検知・対応できます。
AIエージェントと協業できる環境の効果
ここまで、仕事の言語化・Agent Skills化、チームでの共有、失敗できる環境整備という3つの取り組みを紹介しました。その効果を振り返ります。
チームのナレッジ共有が加速する
仕事をSkillsとして定義し、Marketplaceで共有する仕組みがあると、「自分がやっている仕事の手順をAgent Skillsにして共有しよう」という動きが自然に生まれます。これまで個人の頭の中にあった暗黙知が、チーム全体で使える形式知に変わっていきます。 さらに、Agent Skillsはマークダウンで書かれた自然言語なので、新しくチームに入ったメンバーにとっても「このチームではどんな仕事をどうやっているのか」が見える状態になり、オンボーディングの助けにもなります。
本業に集中できる
Renovateの対応をはじめとする、定型的だが手間のかかる作業をエージェントに任せ切ることで、開発者は本来集中すべき設計や実装に時間を使えるようになります。 人間の創造性が求められる仕事は人間がやる一方で、手順が明確で繰り返し発生する仕事はエージェントに委任するという明確な区別を設けることで、集中しやすい環境が整います。
開発サイクルのスピードが上がる
失敗できる環境が整っていると、変更を加えること自体へのハードルが下がります。Smoke TestやSLOアラートがあるから、何か問題があればすぐに気づける体制は、エージェントによる変更だけでなく、人間が行う変更に対しても同じように効きます。 結果として、チーム全体が変化に対して過度に守りに入らず、素早く試して素早くフィードバックを得るサイクルを回せるようになります。
今後の課題
ここまで紹介してきた取り組みはうまく機能し始めていますが、まだ解決できていない課題もあります。
ドキュメントの管理場所の最適解
エージェントに仕事を任せるには、手順やナレッジをドキュメントとして整備する必要があります。しかし、そのドキュメントをどこに置くかは悩ましい問題です。 人間が書きやすく更新しやすい場所(ConfluenceやNotionなど)と、エージェントが参照しやすい場所(マークダウンファイルなど)は必ずしも一致しません。さらに、Agent Skillsの定義、リポジトリのREADME、社内Wikiなど、情報ソースが分散しやすく、どれが正なのかが曖昧になるリスクもあります。 人間にとっての書きやすさとエージェントにとっての参照しやすさを両立しつつ、情報の分散をどう防ぐか。この問いに対する最適解はまだ見つかっておらず、引き続き模索しています。
リモートでエージェントを動かす実行環境
本記事ではリモート実行基盤としてClaude Code Actionsを紹介しましたが、これはGitHubリポジトリに閉じた仕組みです。実際の業務では、社内システムやクラウドサービスなどリポジトリ外の情報にアクセスしながらエージェントを動かしたい場面も多くあります。 そうした情報にセキュアにアクセスできる、エージェントを自律的に動かせるリモート実行環境の最適解はまだ見えておらず、今後取り組んでいきたい領域です。
まとめ
本記事では、AIエージェントとの協業をはじめるための3つの取り組みを紹介しました。これらに共通しているのは、「すごいAIを作る」のではなく「AIと一緒に働ける仕事の形を整える」という考え方です。AIエージェントの性能は日々進化していきますが、それを活かせるかどうかはチームの仕事の整え方にかかっています。 ここまで書いてきましたが、私たちの取り組みもまだ道半ばです。この記事が、みなさんのチームでAIエージェントとの協業を始める一歩になれば幸いです。
We are hiring!
kintone生成AIチームでは、kintoneにおいてAIがチームの一員として一緒に働ける世界を目指してプロダクト作りをしています。そのビジョンを実現するために、本記事で紹介したようなAIエージェントと協業するチーム作りにも取り組んでいます。
こうしたビジョンに共感し、一緒に推進してくれる仲間を募集中です!興味のある方はぜひお気軽にご連絡ください。