新卒社員向けアジャイル・スクラム研修を体験型で設計した話

こんにちは。
kintone開発チームのスクラムマスターをしている、とうま(@toma_cy)です。

新卒社員6名に向けて、アジャイル・スクラム研修を企画・実施しました。
研修の企画・運営は、私を含むスクラムマスター3人で担当しました。

今回の研修では、午前にアジャイル・スクラムの概要を講義形式で学び、午後はチームに分かれてスクラムによる疑似プロジェクトに取り組みました。

本記事では、研修プログラムをどのように設計していったのか、実際にやってみて得られた学びや課題について紹介します。

アジャイル・スクラム研修を企画している方や、体験型ワークの設計を検討している方の参考になれば嬉しいです。


なぜ体験型の研修にしたのか

スクラムは、フレームワークとしての構造を理解すること自体は比較的容易です。

スクラムにはどのような役割があるのか、どのようなイベントがあるのか。
こうした内容は、講義でも説明できます。

一方で、スクラムを実際に使いこなすことは簡単ではありません。

スクラムを理解したつもりで現場に取り入れても、うまくいかないことがあります。
よくある失敗のひとつが、フレームワークを守ること自体に意識が向きすぎてしまい、方法が目的化してしまうことです。

たとえば、以下のような状態です。

  • スクラムイベントを実施することが目的になってしまう
  • スプリントレビューが成果物の進捗報告会になり、学びや方向修正につながらない
  • レトロスペクティブをしているが、実際の改善につながらない

本来スクラムは、チームで価値を届けるためのフレームワークです。

そのため、単にスクラムの用語や流れを理解するだけでなく、実際にチームで悩み、判断し、フィードバックを受けて改善する体験を通じて学ぶことが重要だと考えました。

今回の研修では、スクラムを「知っている」状態で終わらせず、短い時間でも「体験したことがある」状態に近づけることを目指しました。


研修の全体像

研修は1日構成で実施しました。

午前の部:講義

時間帯 内容
10:00 - 10:10 研修の概要説明
10:10 - 10:50 アイスブレイク
10:50 - 11:05 アジャイルの概要
11:05 - 11:30 スクラムの目的
11:30 - 12:00 スクラムの概要

午後の部:ワーク

時間帯 内容
13:00 - 13:05 午後ワークの説明
13:05 - 13:15 課題発表
13:15 - 16:00 疑似プロジェクトワーク(4スプリント)
16:00 - 17:00 全体のふりかえり・Q&A

午前の講義では、アイスブレイクに始まり、アジャイルの歴史的背景や概要、スクラムの目的や内容について扱いました。

ただし、今回重視したのは、知識を細かく説明することではありません。
午後のワークでスクラムの流れを体験できるよう、講義は必要な前提知識をそろえる位置づけにしました。

またアイスブレイクでは、午後のワークで使うオンラインホワイトボードに軽く触れてもらい、ツール操作に慣れてもらう意図も含めました。


オンライン研修でどうスクラムを体験してもらうか

今回の研修はオンラインで実施しました。

そのため、物理的な紙や付箋を使ってワークを行うことはできません。
そこで、オンラインホワイトボードツールを使い、オンライン上で完結できる形式にしました。
※今回の研修ではMiroを利用しました。

午後のワークでは、まず疑似プロジェクトの背景や内容を確認してもらい、その後、以下の流れで進めてもらいました。

  1. バックログ整理・スプリントプランニング
    • プロダクトバックログアイテムの作成・更新
    • 優先順位付け
    • スプリントで扱うアイテムの決定
  2. プロトタイピング
    • オンラインホワイトボード上で遊園地のレイアウトを作成
  3. スプリントレビュー
    • 成果物のデモ
    • 顧客からのフィードバック
  4. ふりかえり
    • 次のスプリントに向けた改善アクションを出す

※ これを4スプリント分繰り返しました。

ワークの題材

午後のワークでは、架空の遊園地開発プロジェクトを題材にしました。

参加者は、顧客企業から新規施設開発を依頼された設計会社のプロジェクトチームという設定です。
顧客の要望をもとに施設の設計案を考え、4スプリントを通じてレビューと改善を繰り返します。

題材として遊園地を選んだのは、実装を伴わなくても、体験や導線、施設構成を表現しやすいと考えたためです。

なお、実際に研修で使った設定は、記事の最後に付録として載せています。


研修プログラムもアジャイルに作る

研修プログラムを作る際は、研修の中身だけでなく、作り方自体もアジャイルに進めることを意識しました。

最初から完成度の高いプログラムを作ろうとしすぎると、設計に時間がかかり、実際に試して改善する時間が少なくなってしまいます。

そこで今回は、まず簡単に研修プログラムの案を作り、すぐに自分たちで試してみることから始めました。

まずはスクラムマスター3人で試す

最初に、スクラムマスター3人で研修プログラム案を作り、自分たちで複数回試しました。

実際に受講者役としてワークを回してみることで、資料を眺めているだけでは気づけない課題が見えてきます。

たとえば、以下のような点です。

  • オンライン上で迷わず作業できるか
  • 使用するツールの負荷が高すぎないか
  • スプリントの時間は適切か
  • 題材は議論しやすいか
  • 優先順位を考える場面があるか
  • 顧客にとっての価値を考えるきっかけがあるか

試した結果をもとに改良し、また試す。
約2か月の準備期間の中で、プレ実施も含めて16回ほど打ち合わせや試行を重ね、研修プログラムを素早く形にしていきました。

研修の題材としてスクラムを扱う以上、研修づくり自体も「作って、試して、学んで、改善する」進め方にできたのは良かった点です。

若手メンバーにプレ実施に参加してもらう

運営側だけで試した後、社内の若手メンバーに受講生役として参加してもらい、プレ実施を行いました。

運営側だけで確認していると、「説明したつもり」「伝わるはず」という前提で見てしまう部分があります。そこで、新卒社員に近い目線で受けてもらい、講義のわかりにくさやワーク中に迷いやすいポイントを確認しました。

プレ実施では、以下のようなフィードバックをもらいました。

スクラムの良さを実感できた

優先順位を考える大事さをリアルに体験できた

楽しく取り組めた

自分たちが必要だと思ったものが、顧客にとって本当に必要なものとは限らないと学べた

実務でも役立てることができそう

特に、「チームで考えたものが、必ずしも顧客にとって本当に必要なものとは限らない」と体験を通じて学んでもらえたことは、今回の研修で狙っていた学びのひとつでした。

また、「実務でも役立てられそう」と感じてもらえたことは、運営側としても大きな自信につながりました。

一方で、研修プログラムの改善点も見えてきました。

たとえばスプリントレビューについては、「どのように振る舞えばよいのかわからない」というフィードバックがありました。

そこで、午前の講義にスプリントレビューの目的をより丁寧に説明する資料を追加し、単なる進捗報告ではなく、成果物をもとにフィードバックを受け、次に何を学ぶかを考える場であることを伝えるようにしました。

また、ふりかえりについても、不慣れな参加者にとっては何を話せばよいか迷いそうだという意見がありました。

そのため、午後のワークでは、うまくいったこと、難しかったこと、次のスプリントで試したいことなど、話してほしい観点をアジェンダとして補足しました。

プレ実施を通じて、研修の狙いが伝わっていることを確認できただけでなく、受講者がどこで迷うのかも具体的に把握できました。


ワークに埋め込んだ学びの仕掛け

今回の研修では、単にスクラムイベントを順番になぞるだけではなく、実務で起こりがちな状況を疑似的に体験できるように設計しました。

特に意識したのは、スプリントレビューを「成果物を見せる場」で終わらせないことです。

3スプリント目で前提を揺さぶる要望を出す

3スプリント目のスプリントレビューでは、顧客役から前提を揺さぶるような要望を出すようにしました。
いわゆる「ちゃぶ台返し」に近いフィードバックです。

狙いは、参加者がその要望をそのまま受け取るのか、それとも「なぜその要望が必要なのか」を確認できるのかを見ることです。

実務でも、顧客やステークホルダーから一見すると無茶に見える要望が出ることがあります。
そのときに背景や目的を確認できれば、表面的な要望とは別の、より軽量な解決策を提案できるかもしれません。

この仕掛けでは、顧客役にあらかじめ背景となる課題を設定しておきました。

この体験を通じて、スプリントレビューが単なる進捗報告ではなく、顧客から学び、次の方向性を考える場であることを伝えたいと考えました。


当日の様子

当日は、午前の講義後、午後から2つのチームに分かれて疑似プロジェクトに取り組みました。

ワークでは、架空の遊園地開発プロジェクトを題材に、各チームが設計案を考え、バックログを更新しながら、4スプリントを通じて提案内容を改善していきました。

ワークを通じて生まれた学び

ワークの中では、チームごとに異なるつまずきや学びがありました。
その中でも、特に印象的だった場面を2つ紹介します。

小さく作って見せることの大切さ

あるチームは、スプリント1・スプリント2で、顧客に見せられる成果物をほとんど出せませんでした。

そのチームは、計画や検討にしっかり時間を使っていました。
一方で、スプリントレビューの時点では、顧客が確認できるものが少なかったため、顧客役として「まずは成果物を見たい」とフィードバックしました。

その後、チームが実際に手を動かして作り始めると、思っていたよりもスムーズに形になっていきました。

この出来事を通じて、計画を立てることは大切である一方で、計画に時間を使いすぎると、フィードバックを得るための材料が出せず、学びの機会も遅くなってしまうことを体験してもらえました。

まずは小さく作って見せる。
そして、顧客からの反応をもとに次の改善につなげる。

このサイクルを実際に体験できたことは、今回の研修の大きな学びのひとつでした。

顧客の要望の背景を探る難しさ

別のチームでは、3スプリント目のレビューで、顧客役から前提を覆すような要望を受けました。 前述の「ちゃぶ台返し」の仕掛けです。

今回そのチームは、要望の背景を深掘りするよりも、まずは要望を受け入れて対応する方向に進みました。

そのため、すべてのワーク終了後に「実は顧客には本質的に解決したい課題があった」という種明かしをしました。

また、スプリントレビューでは成果物を見せるだけでなく、顧客の反応から学び、「なぜその要望が出てきたのか」を探ることも重要だと伝えました。

同じワークに取り組んでいても、チームごとに異なるつまずきや学びが生まれました。
こうした偶発的な学びが生まれるのは、体験型研修ならではだと感じています。


新卒社員からのフィードバック

研修後のアンケートでは、楽しく学べたというコメントがありました。

とても面白い研修でした。

全体として面白く学ぶことができました。

体験型のワークにしたことで、前向きに取り組んでもらえたのは良かった点です。

また、スクラムの流れを理解できただけでなく、自分の苦手分野や経験不足に気づけたという声もありました。

スクラムの流れについて知ることができました。

疑似的に体験することで、自分の苦手分野を把握できました。

講義だけではなく、実際にチームで考え、作り、フィードバックを受ける形にしたことで、自分の課題に気づくきっかけにもなったのではないかと感じています。

実務とのつながりについても、ありがたいフィードバックをもらいました。

社内での運用を交えた話があり、実務でのイメージがしやすかったです。

陥りやすいトラブルも含めて実習できたのが良かったです。

チームやプロダクトに貢献する役割のスクラムマスターに魅力を感じました。

スクラムの進め方だけでなく、実務でどのように活かせそうか、またスクラムマスターがどのようにチームやプロダクトに貢献するのかを感じてもらえたことは、運営側としても嬉しいポイントでした。

一方で、改善につながるフィードバックもありました。

1スプリントの時間がかなり短く、慌ただしく感じました。

遊園地という題材に少し馴染みにくい部分がありました。

楽しく学べたという手応えがあった一方で、スプリント時間や題材には改善の余地があります。
これらのフィードバックは、次回以降の研修改善に活かしていきたいと考えています。


実施して見えた課題

手応えがあった一方で、今回の研修プログラムには課題も見えてきました。

ツール操作の負荷

オンラインホワイトボードツールは共同作業に便利な一方、操作に慣れていない参加者にとっては負荷になる場面がありました。

本来はスクラムやチームでの意思決定に集中してほしいため、次回はワーク前に基本操作を確認する時間をもう少し設けたいです。
午前中のアイスブレイクでツールに触れてもらうだけでなく、午後のワークで使う操作を具体的に練習しておくと、よりスムーズに入れそうだと感じました。

題材への馴染みやすさ

今回は遊園地を題材にしましたが、遊園地にあまり詳しくない参加者にとっては、ややイメージしづらい部分もありました。

題材への理解に時間を使いすぎると、本来学んでほしいスクラムの体験に集中しづらくなります。
次回は、より多くの人がイメージしやすい題材にするか、補足情報を用意することを検討しています。

スプリント時間とワーク量のバランス

短時間でスクラムの流れを体験してもらうため、1スプリントの時間を短めに設定しました。

ただ、その割にやることが多く、参加者にとっては慌ただしく感じる部分もありました。
また、講義、ワーク、レビュー、ふりかえりと内容を詰め込んだ結果、休む時間も少なくなってしまいました。

短い時間で優先順位を考えること自体は学びになりますが、考える余白やふりかえる時間も必要です。
特にオンライン研修では、画面を見ながら議論や作業を続けるため、想像以上に集中力を使います。

次回は、スプリント時間とワーク量のバランスを見直しつつ、適切に休憩を入れられる構成にしたいと考えています。


おわりに

今回は、新卒社員向けに実施したアジャイル・スクラム研修について紹介しました。

オンライン研修という制約はありましたが、実装を伴わない題材にすることで、チームで考え、作り、フィードバックを受け、改善するスクラムの流れを体験してもらうことができました。

また、研修プログラム自体も、最初から作り込みすぎず、スクラムマスター同士で試し、若手メンバーへのプレ実施を通じて改善しながら作っていきました。

今回見えた課題も踏まえて、今後も参加者がスクラムの本質的な学びに集中できるよう、研修内容を改善していきます。


付録:ワークで使った架空プロジェクトの設定(抜粋)

最後に、実際の研修で使った架空プロジェクトの設定を一部抜粋して載せておきます。

研修やワークショップを設計する際の参考になれば幸いです。

架空プロジェクトの設定

プロジェクトの背景

事業会社Aは、全国でレジャー施設を展開する大手企業です。

近年、レジャーに求められる体験は多様化しており、家族で楽しむだけでなく、カップルや友人同士、さらに外国人観光客にも魅力的な施設づくりが求められています。

こうした市場の変化を受け、事業会社Aは遊園地の開発プロジェクトを立ち上げました。

プロジェクトの目的

本プロジェクトの目的は、幅広い来園者が一日中楽しめる遊園地をゼロから企画・設計することです。

今回、事業会社Aは施設の企画を行う立場として、外部の設計会社に設計提案を依頼しています。

そのため本研修では、参加者は設計会社のプロジェクトチームとして、顧客の要望をヒアリングしながら、施設の設計案を提案していきます。

皆さんの役割

皆さんは、事業会社Aから新規施設開発を依頼された設計会社のプロジェクトチームです。

今回は、2つの設計会社がそれぞれ案を考えて提案する形でプロジェクトが進んでいる、という設定です。

そのため、皆さんにはそれぞれの設計会社のメンバーとして、顧客の要望をもとに施設の設計案を検討してもらいます。

研修の中で最終的にどちらの会社が選ばれるかは決めません。 大切なのは勝ち負けではなく、顧客と対話しながら要望を整理し、よりよい提案を考えることです。

顧客の主な要望

エリア

  • 4つの異なるテーマを持つエリアを作ること

その他施設

  • 「救護室」を必ず1つ設置すること
  • 「トイレ」を各テーマエリアに最低1つは設置すること
  • 「レストラン/カフェ」と「ショップ(お土産屋)」を1つ以上設置すること

園内の移動と安全性

  • 来場者が歩くメインの通路を明確に示すこと
  • 人気アトラクションには、行列のための待機スペースを設けること

エンターテイメント

  • パレードができる広い道、またはショーが見られる広場を最低1つは設置すること