こんにちは、この記事はフロントエンドエンジニアのmehm8128とデザインテクノロジストの小林大輔の共著記事です。
サイボウズは2018年に、WAIC(ウェブアクセシビリティ基盤委員会)の会員組織になりました。
2025年までは、実際に委員として活動しているサイボウズのメンバーは小林大輔1名でしたが、2026年から新しくmehm8128が作業協力者として活動を開始しました。そこで、改めてサイボウズ社員がなぜWAICの活動を行っているのか、具体的にどのような活動を行っているのかを紹介していきます。
そもそもWAICとは
WAICについては、公式サイトに以下のような説明が記載されています。
ウェブアクセシビリティ基盤委員会とは、JIS X 8341-3が2010年8月に改正されたのと時を同じくして誕生した組織であり、情報通信アクセス協議会の取り組みの一つです。JIS X 8341-3改正原案作成メンバーや関連企業、関連省庁、ウェブの利用者から構成されています。
JIS X 8341-3の理解と普及を促進するとともに、JIS X 8341-3を利用してウェブアクセシビリティを高めていくために必要な基盤を構築するために、さまざまな活動を行っています。
英語ではWeb Accessibility Infrastructure Committeeと言います。頭文字をとって、WAICという略語(「ウェイク」と発音)を用いることもあります。
ウェブアクセシビリティのガイドラインとして、W3Cによって定められているWCAGと、それが国際規格となったISO/IEC 40500が挙げられます。WAICでは、それらを日本の規格としたJIS X 8341-3に関連した様々な活動を行っています。
サイボウズのPurposeは「チームワークあふれる社会を創る」です。そんなPurposeを掲げているサイボウズにとって、アクセシビリティとは「チームにアクセスできる能力」であると定義しています。
そして「チーム」とは、共通の理想に向かって活動する集団を表します。「チーム」のメンバー全員が生産性高く幸福に活動できるようにするには、チームにアクセスできる能力、つまりアクセシビリティが必須となります。
そんな思想のもと、サイボウズはWAICでの活動だけでなく、普段の業務において様々な面でアクセシビリティに取り組んでいます。詳しくは以下のリンクをご覧ください。
- サイボウズの企業理念 | 採用情報 | サイボウズ株式会社
- アクセシビリティへの取り組み | サイボウズ株式会社
- QAでがっつりアクセシビリティテストをやるようになった話 - Cybozu Inside Out
- サイボウズ Office のフロントエンド刷新におけるアクセシビリティ改善の取り組み - Cybozu Inside Out
- kintoneのアクセシビリティ改善とESLintルールの整備 - Cybozu Inside Out
WAICでは現在、以下の5つの作業部会が活動しています。
- 作業部会1: 理解と普及
- 作業部会2: 実装
- 作業部会3: ガイドライン
- 作業部会4: 翻訳
- 作業部会6: JIS X 8341-3 改正原案作成委員会
作業部会1には小林が、作業部会2にはmehm8128が所属しています。よって今回は、特にこの2つの作業部会に焦点を当ててそれぞれの目線で活動内容の紹介をしていきます。
作業部会1(小林大輔)
WG1に参加した理由
私がWAIC WG1に入会したのは、「ウェブアクセシビリティの重要性を一人でも多くの方に届けたい」という強い想いがあったからです。
転機となったのは、ロービジョン(弱視)の方によるユーザビリティテストを目の当たりにしたことでした。自分が開発したサービスが、当事者の方にはほとんど利用できない。その現実を前に「アクセシビリティの低いサービスを作ることは、単なる技術不足ではなく、本来届けるべき価値や機会をユーザから奪い取ることなのだ」と痛感しました。
意識せずとも、私たち開発者は開発したものによって「誰を社会に招き、誰を排除するか」決めてしまっています。だからこそ、作り手としての責任と可能性を伝えていきたい。そんな思いでWAICの活動を続けています。
ウェブアクセシビリティセミナーの開催
私が所属する作業部会1は、JIS X 8341-3の理解と普及に努めるワーキンググループです。ウェブアクセシビリティを啓発するセミナーの運営やウェブコンテンツの作成など、さまざまな活動を行なっています。詳細は以下の記事をご覧ください。
特に私が深く携わったのはセミナーです。ウェブアクセシビリティを啓発するセミナーを企画する、動画を制作する、実際に登壇するといったさまざまな活動を行なってきました。
特に毎年開催しているCEATECウェブアクセシビリティセミナーは私が最も力を入れた活動のひとつです。ウェブアクセシビリティの初学者を対象として、ウェブアクセシビリティの概要やさまざまな民間企業の取り組みなどを紹介しています。動画のアーカイブがYouTubeで公開されていますので、ぜひご覧いただければと思います。
第1部:ウェブアクセシビリティ最前線(CEATEC2025オンラインセッション)
第2部:インクルーシブデザインによるアクセシビリティ改善(CEATEC2025オンラインセッション)
さまざまな立場の方と一緒に取り組める環境
作業部会1にはWebサービスを開発する企業のほか、Web制作を行う企業、大学、省庁など、さまざまな立場の方が参加しています。多様な立場の方と日本のウェブアクセシビリティの普及について議論できることは、自分自身の見識を広げてくれています。
作業部会2(mehm8128)
WG2の活動については、作業部会2(実装) | ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)に以下のような説明が記載されています。
WG2(実装ワーキンググループ)では、JIS X 8341-3の実装に必要な資料の作成及び公開、また実装の際に生じる諸問題の解決に向けた議論を行います。
JIS X 8341-3に沿った「実装」に関する様々な活動が対象となりますが、WG2では特に「AS情報」と呼ばれるものに力を入れています。
ASとは、アクセシビリティ サポーテッドの略です。
これはWCAGで定義されている言葉で、達成基準を達成するためのテクニックがユーザーエージェント・支援技術の組み合わせでサポートされている方法であることを示す概念です。「サポートされている」とは、例えばスクリーンリーダーの場合には開発者が伝えたい情報が正しく読み上げられる状態を表します。
例えばChromeとNVDAの組み合わせでサポートされている(アクセシビリティ サポーテッドな)方法でも、SafariとVoiceOverの組み合わせではサポートされていない方法であれば、その組み合わせではアクセシビリティ サポーテッドとは言えません。
サイボウズで僕が関わった開発業務で出てきた、アクセシビリティ サポーテッドでなかった技術の例を紹介します。
kintoneのレコード一覧には、テーブルの見出しをクリックするとテーブル列をソートできる機能があります。当初はソート状態を表すためにaria-sortの利用を検討していたのですが、PC Talkerで読み上げられないことから不採用になってしまいました。
結果的には、現在のソート状態を表す上下矢印のアイコンに「昇順」「降順」を表す代替テキストを付与することで、解決しました。*1。

aria-sortを用いる方法はテクニック集にはまだないパターンですが、達成基準の「達成基準 4.1.2 名前 (name)・役割 (role)・値 (value)」に対応する方法だと考えられます。
また、ARIA-ATにはまだテストがありませんが、APGのパターンとして掲載されています。
その他参考:aria-sort_attribute (aria) | Accessibility Support
このように、WAI-ARIAをはじめとしたアクセシビリティに関連するWeb技術では、相互運用性の問題がしばしば存在します。少しでも多くの環境でWCAGの達成基準がアクセシビリティ サポーテッドな状態を実現するためには、相互運用性の現状を把握できるAS情報の整備や、実際に相互運用性を高めていく活動が必要です。
それでは、WG2の具体的な活動を2つ抜粋して紹介します。
ASテスト整備
WG2ではASテストを作成し、そのテスト結果をAS情報としてまとめ、Webサイトにて公開しています。
ASテストはWCAGのテクニック(達成方法集)を基にWG内で検討し、テストケースを作成します。リポジトリはwaic/as_testに公開されているので、誰でも改善・修正提案をissueやPRを作成して送ることができます。
WG2内では、主に以下の2つを議論します。
- どのテクニックを優先してテストケースにしていくのか
- テクニックがアクセシビリティ サポーテッドであることを確認するために、どのようなテストケースを作成すればいいのか
この過程でWCAG側のドキュメントの不備が見つかることもたまにあるので、個人的にはそれらをもっと積極的にAGWG側にフィードバックしていきたいと考えています。
参考:主な活動内容に「W3C WCAGワーキンググループ等との国際協調」の記載があります*2。
AS情報の公開作業
ASテストの結果は、AS情報としてホーム:アクセシビリティ サポーテッド(AS)情報に公開しています。
ちょうど最近数ヶ月でAS情報の更新作業を行っています。作業はwaic/as_infoで行っており、僕もレビュー作業に関わっています。最近はUI改善もいくつか行いました。
今後は後述のWCAG3の状況も考慮に入れながら、情報の表示方法などを改善していきたいと考えています。
また、AS情報として公開するためのASテストを実施できる体験会も定期的に開催しています。ASテストを実施する際にWeb上で利用できるツールを最近作成しました(まだ実験的です)。
その他、以下の記事にWG2の活動についての記載があります。
WG2に参加した理由
普段の業務では、ユーザーに近い部分のアクセシビリティ改善や、アクセシビリティを意識した機能開発をすることができています。しかしTPACに参加したこともあり、標準寄りの活動をもっとしていきたいという気持ちになりました。標準から改善活動に取り組むことで、プロダクトに依存しない分、より根本的な部分から改善することができ、影響を与えられる範囲が大きいからです。
アクセシビリティはただでさえまだマイナーな領域であることに加え、色々と例外的なパターンがあったり、間違った知識が普及しているケースがあったりします。このような理由から、特に新しくアクセシビリティに取り組み始めた人にとっては、本当にアクセシブルな実装をするのはなかなか難しいです。
その一部として前述のように、理論的にはアクセシビリティの向上に繋がるはずなのに、ブラウザや支援技術がサポートしていなくてアクセシブルでなくなってしまうようなケースがあります。僕としてはこのようなケースを、WG2のASに関する活動を通じて改善していきたいと考えています。
W3Cとの関連
サイボウズは2025年4月に、W3Cの会員企業になりました。僕はARIA WGやAGWGのメンバーとして参加しており、アクセシビリティ系の標準化動向をキャッチアップしています。
サイボウズとしてWAICに入っていることから、W3Cの会員メンバーとしての知見についても還元したいと考えています。
特にWG2の活動に関連するものとして、個人的には以下の2つに着目しています。
- Web Platform Tests (WPT)
- InteropのActive Investigationsとして、Accessibility testingが追跡されています
- 3月版Web 標準動向で簡単に紹介しました
- 関連してACDプロジェクトも動いています
- WCAG3のAccessibility Support Sets
- こちらも3月版Web 標準動向で紹介しました
- 日本でシェアが高い、PC Talkerの扱われ方に注目していきたいと考えています
まとめ
この記事では、WAICにおけるサイボウズの活動を紹介しました。
サイボウズは複数の作業部会に所属して様々な活動を行っていますが、目指す理想はひとつです。それは、アクセシビリティが特別な取り組みではなく、「当たり前の品質」としてあらゆるプロダクトに根付く社会を実現することです。
サイボウズが掲げる「チームにアクセスできる能力」は、自社プロダクトだけで完結するものではありません。ユーザーを取り巻く社会全体のデジタル体験が向上してこそ、真に実現されると信じています。
これからも、私たちの理想を胸に、社会全体がアクセシブルになる未来を目指して、WAICの活動に参加していきたいと思います。
*1:ARIAの第一のルールに従うのであれば先にアイコンに代替テキストを付与することを検討するべきですが、最初僕が勘違いしていてその方法だと上手くいかないと考えてしまっており、aria-sortの利用を検討していました
*2:WCAG WG:今のAccessibility Guidelines WG(AGWG)