この記事は、CYBOZU SUMMER BLOG FES '24 (クラウド基盤 Stage) DAY 12 の記事です。
クラウド基盤本部 Platform QA の仲井間です。この記事では、新人からベテランまで、誰でも効果的な成果を生むことができる作業手順書やマニュアルの書き方についてご紹介します。(以下、作業手順書やマニュアルを総じて「手順書」と呼びます)早速ですが、皆さんは業務の中で手順書を使って作業をしたことはありますか?毎月実施される定期作業や、PCのセットアップ作業など、おそらく多くの方が一度は手順書という存在に助けられた経験があるのではないでしょうか。何らかの作業を行う際、毎回ゼロから手順を構築するのは非常にコストがかかります。手順書を活用することによりコストを削減しつつ、既に確立された手順を実施することができます。これにより、初心者からベテランまで、誰でも質の高い作業を再現することが可能です。
しかし、手順書の内容が正確であっても、そこにミスは付きものです。この記事では「なぜ手順書の内容が正確でも、ミスが起きてしまうのか」に着目し、その改善方法について、特にヒューマンエラーを減らす方法に焦点を当て、手順書作成時に気を付けるべきポイントを紹介します。
手順書があってもヒューマンエラーが起こる理由とは?
そもそもなぜ手順書を用いていてもヒューマンエラーが発生するのか、その原因は大きく2つの要素に分けられます。一つは手順書の不明瞭さや曖昧さなど手順書に起因するもの、もう一つは読み飛ばしやコピペミスなど人に起因するものです。それぞれの要素ついて例を挙げてみます。
手順書に起因するもの
- 手順書の情報量が多すぎる
- 作業全体の流れ(全体像)が把握しにくい
- 曖昧な日本語表現
人に起因するもの
- 慣れ
- 誤読やコピペミスなどのケアレスミス
これらの要素を多く含むほど、ヒューマンエラーが起こりやすい手順書になります。つまり逆説的に考えるならば、これらの要素を除外することでヒューマンエラーが起こりづらい手順書になります。もう少し深堀りして、先述した各要素がなぜヒューマンエラーの要因となるか考えてみます。
情報量が多い
具体的には「一文が長い」「補足情報が多い」「手順書内の装飾が多い」などのケースです。 いずれにおいても必要以上の情報が記載されていることで作業者が必要な情報を見つけ出すことが難しくなり、ヒューマンエラーが発生しやすくなります。
一文が長い手順書は、作業者が文の全体を読み切る前に理解を諦めてしまうことがあります。特に、経験豊富な作業者は「この手順は知っている」と思い込み、文の冒頭だけを読んで作業を進めてしまうことがあります。この結果、細かな変更点や重要な注意事項を見落とし、誤った手順を実行してしまうリスクが高まります。
次に、補足情報が多すぎる手順書は、どの情報が本当に重要なのかを判断するのが難しくなります。補足情報が多いと、作業者は必要な情報を探すのに時間を費やし、集中力が低下します。その結果、重要な手順や注意事項を見逃してしまうことに繋がります。
さらに、手順書内の装飾が多すぎる場合、視覚的にどこが重要な部分なのかが分かりづらくなります。装飾が多いと、情報が散らばって見え、作業者の注意が分散されてしまいます。これにより、作業者は重要な手順を見逃したり、誤解したりするリスクが高まります。
作業全体の流れ(全体像)が把握しづらい
具体的には「章立ての階層が深い」「別資料への参照が多い」「別資料への参照が深い(参照先の資料が更に別の資料を参照している)」などのケースです。作業全体の流れの中で、今実施している手順はどのフェーズなのか、何を目的として行われているものなのかを把握できず、ただ手順書をなぞるだけの作業になりがちです。その結果、集中力の低下や手順の見逃し、順序の誤り等が発生しやすくなります。
別資料への参照が多い、または深い場合、別資料を参照中は元の手順書ではどこまで実施したのか、参照先の資料ではどこまで実施すべきか等を把握しながら作業を進めることになります。その管理に失敗すると手順の見落としが発生してしまいます。
曖昧な日本語表現
具体的には「可能ならば実施」「念のため確認」「以前と同様の」などの表現が該当します。 一度その手順書で作業を行ったことがある人であればともかく、初めてその手順書を触る人にとってこのような表現は混乱の元となります。手順書に記載された手順が必要か不要かの判断基準は、手順書内に明記しておく必要があります。手順書は初心者からベテランまで活用できるものにするべきであるため、作業者の背景理解や経験に判断を委ねるような表現は避けるようにしましょう。
慣れ
作業に慣れてくると、手順書を細かく確認せずに作業を進めてしまうことがあります。これは「慣れ」による過信からくるもので、手順の省略や確認不足が発生しやすくなります。慣れているために「この手順は知っている」と思い込み、手順書を確認せずに作業を進めてしまうことで、重要なステップを飛ばしてしまう可能性があります。また、手順書が更新されていることに気づかず、古い手順で作業を進めてしまうこともあります。このような場合、細かな変更点は特に見落とされやすくなるので注意が必要です。確認作業を省略してしまうことで、ミスが発生しても気づかないまま作業を進めてしまうリスクにも繋がります。
誤読やコピペミスなどのケアレスミス
ケアレスミスは、注意力の欠如や集中力の低下によって発生するミスです。特に長時間の作業や疲労が原因で注意力が散漫になります。例えば、似たような単語やフレーズを誤って読み取ってしまったために、誤った手順を実行してしまうケースがあります。
また、手順書に従ってコマンドや設定を入力する際、誤って入力してしまうこともあります。特に複雑なコマンドや設定の場合、コマンドのコピー時に範囲を誤って選択してしまった結果意図しないコマンドが実行され、システムに影響を与えてしまうケースです。
さらに、手順を実行する順序を間違えてしまうこともあります。手順書の内容が複雑であったり、複数のタスクを同時に進めている場合には、どの手順を実行したか混乱しやすくなります。これにより、手順を飛ばしてしまったり、誤った順序で実行してしまうことがあります。
ミスが起こりづらい手順書の書き方とは?
ミスが起こりづらい手順書の書き方について具体的なポイントを紹介します。これらのポイントを押さえることで、誰でも簡単に理解し、正確に実行できる手順書を作成することができます。
手順が明確で簡潔
- 一文の長さが1~2行に収まっている
- 別資料への参照や補足情報が必要最小限に収まっている
- 本当に重要な部分が装飾により分かりやすく表現されている
手順を明確で簡潔にすることで、作業者の認知コストを下げると同時に手順の実施に必要な情報へアクセスしやすくなります。常時読む必要がない補足情報や別資料への参照は、手順書の最後にまとめておき、必要なタイミングで辿れるようにしましょう。
作業の概要や目的を明記する
- 手順書の冒頭に、作業全体の概要や目的を記載する
- 各手順の前に、その手順が何を目的としているのかを簡潔に説明する
- 作業全体の流れやフェーズを明示し、今どの段階にいるのかを把握しやすくする
作業の概要や目的を把握できるようにすることで、作業者は手順の意図を理解しやすくなり、手順をただなぞるだけでなく、意図を理解して実行することができます。その結果、手順の見逃しや誤解を防ぎ、作業の正確性を高めることができます。 もし手順書として利用しているツールに固定目次やサイドナビゲーションの設置が可能であればそれを活用するのもよいでしょう。
チェックリストの活用
- 各手順の実施後にチェックを入れる欄を設ける
- チェックリストを手順書の各セクションに配置し、進捗をリアルタイムで確認できるようにする
- チェックリストには、特に重要な手順や注意点を強調して記載する
チェックリストを活用することで、作業者は各ステップを確実に実行し、手順の読み飛ばしや順序の誤りを防ぐことができます。また、チェックリストを手順書の各セクションに配置することで、進捗をリアルタイムで確認でき、複数のタスクを同時に進める際にも混乱を防ぐことができます。 チェックリストの注意点として、「手順を実行したか」を確認するためだけのチェックリストにならないように注意しましょう。チェックリストは「手順を実行した結果が意図したものになっているか」を確認するためのものになっていることが大切です。
レビューサイクルを回そう
ここまで、ヒューマンエラーの原因や要因、そしてその対策としての手順書の書き方について述べてきました。しかし、これらの対応だけではまだ完全ではありません。手順書をより効果的にするためには、レビューサイクルを回すことが重要です。
新人とベテランでは分かりやすいと思う文章量や書き方が異なります。新人にとっては詳細な説明が必要であっても、ベテランにとっては冗長に感じることがあります。つまり、人それぞれの正解が異なるため、他の人の視点から手順書を見てもらうことが必要です。異なる視点からのフィードバックを受けることで、手順書の品質を向上させることができます。
また、手順書は使ってもらって初めて価値があるものです。そのため、手順書の更新が必要になったらすぐに反映できる体制を整えることが大切です。手順書を実際に使った人からのフィードバックを受け取り、迅速に反映することで、手順書の信頼性と有用性を維持しましょう。
手順書の更新の際には単に情報を追加するのではなく、どの情報を残し、どの情報を削除または移動するのかを常に意識することが重要です。特に、情報が過剰になるとかえって混乱を招くことがあります。必要な情報を絞り込み、簡潔で明確な手順書を維持するために、定期的なレビューと整理を心がけましょう。
レビューサイクルを回すことで、手順書は常に最新で最適な状態を保つことができ、ヒューマンエラーを最小限に抑え、作業の効率と正確性を向上させることができます。手順書の品質を維持するために、定期的なレビューとフィードバックの収集を怠らないようにしましょう。
最後に
この記事を読んでもし思い当たる部分が一つでもあったなら、まずは、今使っている手順書から見直してみてはいかがでしょうか。この記事で紹介したポイントを参考に、情報が多すぎたり曖昧な表現となっている部分を改善し、チェックリストの導入も検討してみてください。
もし新しい手順書を作成する際には、手順を簡潔にまとめ、作業の概要や目的を明記することを心がけましょう。これで誰でも理解しやすい手順書が作成できます。
そして手順書の品質を維持するために、定期的なレビューサイクルを導入しましょう。その際は新人とベテランの両方からフィードバックを受け取ることで、手順書の改善に役立てることができます。 また、手順書の重要性と正しい使い方について、チームメンバーに教育を行うことも大切です。定期的なトレーニングを実施して、全員が手順書を正しく使えるようにしましょう。
手順書の改善は一朝一夕にはできませんが、継続的な努力とフィードバックの収集により、確実に品質を向上させることができます。この記事を参考に、より効果的な手順書を作成し、ヒューマンエラーの削減と作業効率の向上を目指しましょう。